ぼくらは群青を探している
「まあ、簡単にいうとめっちゃ女好きだしめっちゃモテるしめっちゃ手早い。握手したら妊娠するくらい思っておっけー」

「…………」

「適当なこと吹き込むのやめてやれ。男の欲望に忠実なヤツなんだ。で、女に好かれる顔してるし、女の扱いも上手いってだけ」


 桜井くんの乱暴な紹介を、雲雀くんがフォローした。考えたことはなかったけれど、確かに扱いが上手くないとあんなにモテはしない気がした。


「……その荒神くん、五組に遊びに来ないんだね。隣のクラスにいるのに」

「最近新しい彼女できたから忙しいんだよ。アイツ、彼女ができたら暫くそっちに夢中になるから」

「彼女作ってもいいことねーのにな」

「……ないの?」

「基本弱味だからな」


 これまたヤクザみたいな話が出てきた。内心は茶化したい気持ちでいっぱいだったけれど、雲雀くんは真顔なので、どうやら本気らしかった。


「実際、楽な話だろ。彼女犯すぞなんて言われたらどんなヤツでも土下座したまま死ぬまでぶん殴られてやるし」

「……そうかな」

「侑生は愛が重いんだよ。コイツさあ、ちっさい妹いんだけど、妹が学校帰りに誘拐されたとき、マジで死ぬとこだったんだよ」


 机に足を投げ出していた雲雀くんがガタッと揺れた。その手にある携帯電話はいつの間にか折りたたまれていて、多分、桜井くんの発言に(あせ)ったのだろうことが伝わってきた。


「テメッ……勝手に人の話してんじゃねーよ!」

「だって彼女犯すって言われたらとか言うから思い出しちゃって。そう、コイツの妹がね、誘拐されて『おい雲雀くん、妹欲しけりゃ土下座しろよぉ』とか言われたわけ。そしたらマジでコイツ、妹のために土下座して殴られ続けてたんだぜ、すごくね? 俺が駆けつけたときなんか……なんだっけ、そう、虫の息」

「テメェ!」


 クールな雲雀くんが声を荒げて桜井くんの胸倉を掴み上げた。でも桜井くんはどこ吹く風で「もー、あン時、俺が行かなかったらコイツ死んでたよー、マジでー。一ヶ月くらい入院してたもーん」それどころか一層からかうような口ぶりになっていた。


「……妹、いくつ下なの?」

「あぁ? 六つだよ。今年小学校四年だ」

「妹のことマジ溺愛してんの、マジシスコン」

「うるせーなテメェは!」

「おっと」


 突き飛ばすように手を離されたけれど、桜井くんは蹈鞴(たたら)を踏むことさえなかった。その(からだ)(さば)きというか、身のこなしから、先週、三年生を蹴っ飛ばしたときの身軽さを思い出してしまった。


「……雲雀くん、優しいお兄さんなんだね」

「バカにしてんのか三国!」


 怒鳴られたけれど、不思議と怖くはなかった。なんなら笑えてしまったせいで、雲雀くんも怒りのやり場を失ったように口を(つぐ)んだ。


「……三国、お前、変わってんな、マジで」

「……そうかな」

「だって普通の女子なんて侑生に怒鳴られたら泣いちゃうぜ」

「テメェも泣かせてやろうか」


 すっかり机から離れてしまった二人を見つめながら、思いがけず得た情報を整理する。雲雀くんは、まだ小学生の妹がいて、その妹のことを溺愛している。話ぶりからして、おそらく二人兄妹。桜井くんは不明。でもこの流れで自分の兄妹の話をしないということは、一人っ子……?

 そうして、頭の中で分類をする。私はまだ、この人達のことを知らないから。
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