ぼくらは群青を探している
「しんじょーくん、一人で行っちゃだめだよ」

「言うこと聞けない新入りは可愛がってもらえねーよ」


 トレードマークのように、揃いも揃って白いシャツに濃紺のズボン。そういえば、青蘭学園の制服は濃紺のブレザーだ。まるで清廉(せいれん)さの象徴のような、違和感を覚えるほどの清潔感のある恰好と、それにあまりにも見合わないガラの悪い恰好。その悪さは、髪型なのか、態度なのか、煙草を吸うその手なのか、この状況で薄ら笑いを浮かべる顔なのか、それともその全てからくるのか分からない。ただ、一見して「ガラが悪い」とはこういう人達のことをいうのだと分かった。

 ざっと数えて、十五人前後。雲雀くんが怪訝(けげん)そうに「あ?」と首を傾げた。


「なんだこれ、ぞろぞろ深緋の連中連れて来やがって」

「おい、上には挨拶しろって、群青では教えてくんねーのか、雲雀」


 新庄の隣に知らないボウズ頭の人が並んだ。頭にはジグザグの剃り込みが入っていて、体が雲雀くんの二倍はありそうだ。入学式初日にやってきた庄内先輩と同じか、それ以上に体が大きく、まさしく筋骨(きんこつ)隆々(りゅうりゅう)というべき体格で、指先の煙草が小さく見えた。

 いかにもガラが悪いというより、最早半グレと言われても納得する見た目だ。雲雀くんは「なんだ、富田(とみた)か」と珍しく知っている反応を示す。


「中学ン時よりデブったな、おい」

「……お前は相変わらず女みたいな顔してんな。それで女抱けんのか?」

「いくら絶対オスつったって、デブゴリラよりマシだろ」


 悪態を吐きながら、雲雀くんはトントンとサンダルの爪先で地面をつついた。きっと桜井くんか九十三先輩が来るまでの時間稼ぎをしたいのだろう。


「つか、何の用だ?」


 そう思っていたのだけれど、予想に反し、くしゃくしゃと髪をかき混ぜる雲雀くんの声は苛立っていて、冷静さなどなかった。


「深緋の連中が雁首(がんくび)揃えて、群青(こっち)の先輩達のことも襲ってんだろ? んで、俺らじゃなくて三国を襲ってんの、何でだ?」


 ぶるっ、とその声に本能的に体が震えた。

 雲雀くんが首を傾けていたせいで、向こうの新庄の顔が見えた。新庄はにっこりと、まるで善人のように微笑む。


「もちろん、君への嫌がらせ」


 ピクッと雲雀くんの手が震えた瞬間、ザッ、と新しい誰かの足音がした。深緋の人達の視線が一斉に音のしたほうへ向けられ、私もつられて視線を向け、見慣れた金髪に気付いた。


「……新庄」


 桜井くんの低い声で、手の力が緩むのを感じる。よかった。せめて、雲雀くんだけじゃなくて、桜井くんもいれば。


「なんだ、桜井もいるじゃねーか」

「……富田、そういえば深緋か」


 雲雀くんが「中学のときから」と言っていたとおり、桜井くんも富田とかいう深緋の先輩と知り合いらしい。桜井くんは返事になっていない返事をし「……なんか余計デブったよね、富田」と雲雀くんと同じ感想と共に肩を(すく)めた。

 その桜井くんが歩み寄ってきて、雲雀くんが「……早かったな、昴夜」とちょっと顔を向けた。私も顔を向けると、桜井くんと目が合った。


「……英凜?」


 私でしかないと分かるはずなのに、そんな疑問が口から出たのは、なぜだったのだろう。

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