ぼくらは群青を探している
新庄の挑発に雲雀くんが駆けだした瞬間、どうしてか、桜井くんの焦った声が止める。
でも雲雀くんが止まることはなく、風を切る音がしそうなほどの速さと柔軟さで新庄の顔めがけて蹴りが向けられる。それを新庄は軽く首を傾けてそれを躱す。拳が出る、拳と腕で流す、更に拳を出す、躱され顔を殴られ体勢を崩す、それでもそこから逆立ちの要領で足を出し胸を蹴る、新庄が詰まった瞬間に顔面を殴る──桜井くんの心配がどこにあるのかは分からないけれど、雲雀くんが優勢だ。
「ックソ、すぐ頭に血上るんだから──」
やきもきした様子のままの桜井くんは、富田の拳を躱すために言葉を切った。ほんの紙一重、必要最小限での躱し方だ。桜井くんがあっかんべと舌を出していなければ当たったと思っていただろう。チッと富田が舌打ちした瞬間、桜井くんの拳がそのお腹にめり込んだ、けど富田は顔色を変えず、そのまま桜井くんのお腹を蹴り上げた。
「桜井くん!」
「あークソ、デブの腹、まじで邪魔」
私が座り込んでいる社近くまで転がってきた桜井くんは、立ち上がりながら唾を吐いて、またすぐに富田に突進する。正確には富田と他の深緋のメンバー、三対一だ。それでも、まるで後ろに目でもあるように、桜井くんは背後からの打撃さえ躱す。私にはさっぱり理解できない動きだった。
「桜井は相変わらずひょろっこいな、あ?」
バンッと桜井くんの頭がバンッと酷い音と共に蹴飛ばされ、息を呑む。そのまま蹴り上げられそうになって──地面に手をついた桜井くんの体は軽やかに回り、パァンッとでも聞こえてきそうな軽快さで、富田の顎を吹っ飛ばした。
「そのひょろっこいヤツにやられる先輩、ギャグに体張っててマジスゲェな」
富田の口から呻き声が漏れているところに、更に拳も叩きこむ。その拳は腹部にも叩きこまれた。深緋のメンバーでさえ、息を呑むほどの速さだった。
倒れた富田を見下ろしながら、さすがの桜井くんも息を吐く。その少し向こう側に視線を向ければ、雲雀くんが新庄の腕を捩じり、背中から押さえつけるようにして地面に這いつくばらせているところだった。
カンッと新庄の手からデジカメが落ち、すかさず雲雀くんが蹴り飛ばす。狙いすましたかのようにそれは桜井くんの足元に転がり、桜井くんは素早く拾い上げ、SDカードを抜くとバキリと拳で握り潰した。コテンと地面に落ちた空っぽのデジカメは足で踏み潰されていた。
「新庄」
新庄は雲雀くんの足に右肩を踏みつけられ、手に右腕を捩じられたまま掴まれていた。雲雀くんがこのまま力を入れれば、その肩と腕はボキリと音を立てて外れてしまうだろう。
「前も言ったよな。次、同じことしたら殺してやるって」
「そうだよねえ、君のいいところは人質がいることだったのに、残念、もういないんだもんねえ。代わりに三国ちゃんいるからいいけど」
新庄の顔が歪み、雲雀くんの足に力が籠ったのが分かった。
「……新庄、お前の──」
「ねーえ、雲雀くん」
新庄の明るい猫なで声が、場を止める。桜井くんだって新庄に顔を向けた。
「そんなに離れて大丈夫?」
「あん?」
雲雀くんが口を歪めて怪訝な声を出す。
「三国ちゃん、ひとりぼっちじゃない?」
バッ、と桜井くんと雲雀くんの顔が同時に私を見た。
でも雲雀くんが止まることはなく、風を切る音がしそうなほどの速さと柔軟さで新庄の顔めがけて蹴りが向けられる。それを新庄は軽く首を傾けてそれを躱す。拳が出る、拳と腕で流す、更に拳を出す、躱され顔を殴られ体勢を崩す、それでもそこから逆立ちの要領で足を出し胸を蹴る、新庄が詰まった瞬間に顔面を殴る──桜井くんの心配がどこにあるのかは分からないけれど、雲雀くんが優勢だ。
「ックソ、すぐ頭に血上るんだから──」
やきもきした様子のままの桜井くんは、富田の拳を躱すために言葉を切った。ほんの紙一重、必要最小限での躱し方だ。桜井くんがあっかんべと舌を出していなければ当たったと思っていただろう。チッと富田が舌打ちした瞬間、桜井くんの拳がそのお腹にめり込んだ、けど富田は顔色を変えず、そのまま桜井くんのお腹を蹴り上げた。
「桜井くん!」
「あークソ、デブの腹、まじで邪魔」
私が座り込んでいる社近くまで転がってきた桜井くんは、立ち上がりながら唾を吐いて、またすぐに富田に突進する。正確には富田と他の深緋のメンバー、三対一だ。それでも、まるで後ろに目でもあるように、桜井くんは背後からの打撃さえ躱す。私にはさっぱり理解できない動きだった。
「桜井は相変わらずひょろっこいな、あ?」
バンッと桜井くんの頭がバンッと酷い音と共に蹴飛ばされ、息を呑む。そのまま蹴り上げられそうになって──地面に手をついた桜井くんの体は軽やかに回り、パァンッとでも聞こえてきそうな軽快さで、富田の顎を吹っ飛ばした。
「そのひょろっこいヤツにやられる先輩、ギャグに体張っててマジスゲェな」
富田の口から呻き声が漏れているところに、更に拳も叩きこむ。その拳は腹部にも叩きこまれた。深緋のメンバーでさえ、息を呑むほどの速さだった。
倒れた富田を見下ろしながら、さすがの桜井くんも息を吐く。その少し向こう側に視線を向ければ、雲雀くんが新庄の腕を捩じり、背中から押さえつけるようにして地面に這いつくばらせているところだった。
カンッと新庄の手からデジカメが落ち、すかさず雲雀くんが蹴り飛ばす。狙いすましたかのようにそれは桜井くんの足元に転がり、桜井くんは素早く拾い上げ、SDカードを抜くとバキリと拳で握り潰した。コテンと地面に落ちた空っぽのデジカメは足で踏み潰されていた。
「新庄」
新庄は雲雀くんの足に右肩を踏みつけられ、手に右腕を捩じられたまま掴まれていた。雲雀くんがこのまま力を入れれば、その肩と腕はボキリと音を立てて外れてしまうだろう。
「前も言ったよな。次、同じことしたら殺してやるって」
「そうだよねえ、君のいいところは人質がいることだったのに、残念、もういないんだもんねえ。代わりに三国ちゃんいるからいいけど」
新庄の顔が歪み、雲雀くんの足に力が籠ったのが分かった。
「……新庄、お前の──」
「ねーえ、雲雀くん」
新庄の明るい猫なで声が、場を止める。桜井くんだって新庄に顔を向けた。
「そんなに離れて大丈夫?」
「あん?」
雲雀くんが口を歪めて怪訝な声を出す。
「三国ちゃん、ひとりぼっちじゃない?」
バッ、と桜井くんと雲雀くんの顔が同時に私を見た。