ぼくらは群青を探している

(3)片鱗

 実力テストが終わった放課後、桜井くんは早速雲雀くんの席に「ゆーきぃー」とやってきた。


「もー、やばい。マジでやばい。数学、五十分間ずっと鉛筆転がしてた」

「よく鉛筆なんか持ってたな」

「昨日の夜、頼みの(つな)ってことで筆箱に入れといた」


 ジャーン、と言いながら桜井くんは緑色のオーソドックスな鉛筆を見せつけてきた。


「これが俺の救世主だぜ」

「三国はどうした、三国は」

「だって四日教えてもらっただけじゃどうにもならなかったんだもん」

「なにがもんだ、可愛くねーよ」

「というか、桜井くん、ずっと喋ってたし……。私が教えてたことにしてほしくないんだけど……」

「言うじゃねーの、三国」


 笑いながら、雲雀くんはテストの問題用紙をご丁寧に整えた。配布された回答と一緒にカバンの中に入れるのを見て、もしかして答え合わせでもするつもりだろうか、なんて。


「なー、テスト頑張ったし、帰りどっか寄ってかねー? 飯食おー」

「いいけど、三国も来るか?」

「えっ」


 感じたのは困惑と焦燥と――ほんの少しの高揚。どうしてこの二人に誘われたのか分からないし、あの怪物をぶっ飛ばし、群青(ブルー・フロック)に頻りと誘われている二人にまるで対等のように扱われている理由が分からない――なにより、新しいクラスメイトに夕飯に誘われるなんてことが、嬉しい。そんな、相反するとまではいかなくとも、種類の違う感情が入り交じっていた。


「……いいの、私が行って」

「いいだろ。つか昴夜になんかおごってもらえ、今週の放課後ずっと勉強教えさせられてたんだから」

「え! ……そっか。ドリンクバーくらいならいける」

「それは別に……いいけど……」


 時刻は四時半。夕飯までにはまだ少し時間がある。


「……家に、電話する。夕飯要らないって」

「あーそっか、悪いな。携帯、持ってんの?」

「ん、一応……」


 いかんせん、おばあちゃんと二人暮らしだ。私に何かあることはなくても、おばあちゃんに何かあることは有り得る。そんな理由で、中学生のときから携帯電話は持たされていた。

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