ぼくらは群青を探している
「昔となーんも変わんないねえ。本当に君は扱いやすくてサイコーだね」
「やめて! やめて新庄!」
迫る痛みに耐えるように、雲雀くんの口元は強く引き結ばれ、眉間には深い皺が浮かぶ。裏腹に、新庄はぺろっと上唇を舐めた。
そのときだ。新庄の鼻の先で、不意になにかがバチッと光った。
パンッ、という爆竹のような音が先か、新庄が顔をのけ反らせるのが先か。とにかく、小さな閃光と共に、新庄は素早く雲雀くんから離れた。
「なーにして遊んでんの。先輩も混ぜてよ」
聞きなれた明るい、それなのに今日はちょっと気だるげな声。当初深緋のメンバーが現れたほうから、ゆっくりと九十三先輩が歩いてきた。その後ろからは「うわー、派手にやってんね」「半分減ってんじゃん、すげ」と山本先輩と中山先輩も現れる
新庄は分の悪さを瞬時に理解したのだろう、その口元はやや不自然に笑みを作った。
「……人の顔面に花火ぶん投げるとか、おたく、気狂ってない?」
どうやら、九十三先輩は新庄の目の前に花火を投げたらしい。しかも、音からすればねずみ花火か爆竹の類だろう。一歩間違えば失明する。気が狂ってるとしかいいようがない、その点は確かに新庄が正しかった。
「だーってお前らのせいで花火全ッ然見れなかったんだぜ? 補習だけさせられてなんも食ってないしさあ、雲雀は先輩パシるしさあ、まあ三国ちゃんのためなら仕方ないかあって感じだけど」
その気の狂った九十三先輩は、私を見つけるとにこーっと笑った。
「やっほー三国ちゃん。今日はねー、パンツの色聞かないよ。浴衣だから履いてないよね」
……この期に及んでそのルーティンじみた質問を繰り返す九十三先輩は頭がおかしいし、きっと気が狂ってるし、あの先輩が三番目に偉いという群青は、やっぱりどこかおかしいのではないだろうか。
「……履いてます」
「マジ!?」
愕然とした九十三先輩の顔は「だから答えなくていいつってんだろ三国!」「イッテ!」怒鳴り声と一緒に歪む。九十三先輩は背中を擦りながら「あのさあ、さすがにこのタイミングでマジ蹴りすんのやめて? さすがの俺も疲れてんの」隣に現れた蛍さんを恨みがまし気に見下ろす。その背後で、カチリという音と共に火が灯ったかと思うと、能勢さんが咥え煙草に火をつけたのが見えた。
「……蛍永人まで出てきちゃったか」
「オイ、テメェ一年だろ。敬語遣えボケ。……なんだ、富田じゃねーか」
あたりを見回していた蛍さんが、桜井くんの近くでゆらりと立ち上がった富田に目を止めた。
富田はペッと血か何かが混ざったような唾を吐いた。桜井くんが散々殴ったのは見ていた、それでも立ち上がるなんて、有り得ないほどタフだ。現に、食らった打撃数は少ないはずの桜井くんのほうが、隣で膝に手をついたままだ。
「久しぶりだな、蛍。お前が群青の頭になってから、ますます群れてて鬱陶しいって評判だぜ」
「そりゃー俺達、群青史上最高に寂しがりって書いて最寂な代だから。一緒にいないと寂しくて死んじゃうんだよ。ねー永人」
隣の九十三先輩が茶化しながら蛍さんの肩に腕を載せた。まるで蛍さん自身が寂しがりとでも言いたげなセリフだったせいか、蛍さんは乱暴にそれを振り払った。
「寂しがりねえ。だから一年に呼び出されてホイホイやってくるってか? 威厳もへったくれもねーな」
「やめて! やめて新庄!」
迫る痛みに耐えるように、雲雀くんの口元は強く引き結ばれ、眉間には深い皺が浮かぶ。裏腹に、新庄はぺろっと上唇を舐めた。
そのときだ。新庄の鼻の先で、不意になにかがバチッと光った。
パンッ、という爆竹のような音が先か、新庄が顔をのけ反らせるのが先か。とにかく、小さな閃光と共に、新庄は素早く雲雀くんから離れた。
「なーにして遊んでんの。先輩も混ぜてよ」
聞きなれた明るい、それなのに今日はちょっと気だるげな声。当初深緋のメンバーが現れたほうから、ゆっくりと九十三先輩が歩いてきた。その後ろからは「うわー、派手にやってんね」「半分減ってんじゃん、すげ」と山本先輩と中山先輩も現れる
新庄は分の悪さを瞬時に理解したのだろう、その口元はやや不自然に笑みを作った。
「……人の顔面に花火ぶん投げるとか、おたく、気狂ってない?」
どうやら、九十三先輩は新庄の目の前に花火を投げたらしい。しかも、音からすればねずみ花火か爆竹の類だろう。一歩間違えば失明する。気が狂ってるとしかいいようがない、その点は確かに新庄が正しかった。
「だーってお前らのせいで花火全ッ然見れなかったんだぜ? 補習だけさせられてなんも食ってないしさあ、雲雀は先輩パシるしさあ、まあ三国ちゃんのためなら仕方ないかあって感じだけど」
その気の狂った九十三先輩は、私を見つけるとにこーっと笑った。
「やっほー三国ちゃん。今日はねー、パンツの色聞かないよ。浴衣だから履いてないよね」
……この期に及んでそのルーティンじみた質問を繰り返す九十三先輩は頭がおかしいし、きっと気が狂ってるし、あの先輩が三番目に偉いという群青は、やっぱりどこかおかしいのではないだろうか。
「……履いてます」
「マジ!?」
愕然とした九十三先輩の顔は「だから答えなくていいつってんだろ三国!」「イッテ!」怒鳴り声と一緒に歪む。九十三先輩は背中を擦りながら「あのさあ、さすがにこのタイミングでマジ蹴りすんのやめて? さすがの俺も疲れてんの」隣に現れた蛍さんを恨みがまし気に見下ろす。その背後で、カチリという音と共に火が灯ったかと思うと、能勢さんが咥え煙草に火をつけたのが見えた。
「……蛍永人まで出てきちゃったか」
「オイ、テメェ一年だろ。敬語遣えボケ。……なんだ、富田じゃねーか」
あたりを見回していた蛍さんが、桜井くんの近くでゆらりと立ち上がった富田に目を止めた。
富田はペッと血か何かが混ざったような唾を吐いた。桜井くんが散々殴ったのは見ていた、それでも立ち上がるなんて、有り得ないほどタフだ。現に、食らった打撃数は少ないはずの桜井くんのほうが、隣で膝に手をついたままだ。
「久しぶりだな、蛍。お前が群青の頭になってから、ますます群れてて鬱陶しいって評判だぜ」
「そりゃー俺達、群青史上最高に寂しがりって書いて最寂な代だから。一緒にいないと寂しくて死んじゃうんだよ。ねー永人」
隣の九十三先輩が茶化しながら蛍さんの肩に腕を載せた。まるで蛍さん自身が寂しがりとでも言いたげなセリフだったせいか、蛍さんは乱暴にそれを振り払った。
「寂しがりねえ。だから一年に呼び出されてホイホイやってくるってか? 威厳もへったくれもねーな」