ぼくらは群青を探している
「ま、コイツみたいなのは置いといて。要はやり過ぎてもやり返されるだけだって話だよ。例えば桜井、お前、新庄に腕折られたらどうする」

「新庄の足を折る」

「この場での模範解答だな」


 とんでもない回答に私は目を()いたけれど、蛍さんはパチパチと気のない拍手をした。


「そうなるだろ? だからやりすぎるのはマズイんだよ」

「で、でも……初対面で問答無用で腕を折ってきた相手なんて、もう関わりたくなくないですか? 私がそう思うだけ……?」

「大抵はそうだよねー、でもって相手が雲雀だって分かれば、マジで交通事故って思うかな。でも、それが一対一じゃなくなるとちょっと話が変わる」

「ここで次の問題だ、桜井。二年後、お前の可愛い後輩たちが新庄にボコられたとする。ちなみに新庄は深緋のトップだ。お前ならどうする?」

「群青で深緋を潰す」

「はいまた模範解答、百点満点だ。つまりそういうことだ、んで、白聖高校(はくせい)には(レイブン・)(クロウ)がいる」


 知らない名前だったけれど、深緋のように厄介な面々がいるという意味だろう。

 ということは、私を襲った二人は(レイブン・)(クロウ)のメンバー……? 新庄は群青と(レイブン・)(クロウ)をぶつけるためにこの二人を仕込んでいたのだろうか。実際、蛍さんの理屈に従えば、この事件について群青が深緋を責めようとしても、深緋は「(レイブン・)(クロウ)の連中が勝手にやったことです、新庄はデジカメを持ち逃げしようとしてたみたいですけど、あれは便乗しただけです」と責任逃れをすることができる。

 もし、そう考えていたのだとしたら、新庄はどこまでもクズでゲスだ。


「もしかしたら、(レイブン・)(クロウ)の連中が出てくるかもしれねえ。そうなったら、雲雀、お前もちゃんと頭数に入れるからな」


 雲雀くんはどこかバツの悪そうな顔をしていた。私にはそうは思えないのだけれど、雲雀くんには暴走した自覚があるらしい。

 ただ、その反面、どこか意外そうでもあった。意外そうというか、面食らったというか、肩透かしをくらったというか、そんな顔だ。


「んじゃ帰んぞ。そろそろ花火終わるだろ、見つかると面倒くせー」

「……叱られると思ってました」

「あ?」


 颯爽(さっそう)とこの場を切り上げて帰ろうとする蛍さんを、雲雀くんが柄にもなく引き留めた。


「なんで」

「……やり過ぎたとは思ってないですけど、群青としてはやり過ぎたってのは分かってるんで」


 私が襲われかけたといっても、未遂に終わっている。そうであれば、私が失ったものはなにもなく、せいぜい──恐怖を、植え付けられたに過ぎない。その意味では、相手を骨折させるのは間違いなくやりすぎだ。……理屈で考えればそう思う。私はなにひとつ外傷を負っていないのだから。

 そして、理屈がそうであるということは、メンバーを襲われた群青(チーム)の在り方としてもそうだ。先輩達に言わせれば“やりすぎ”は無用な火種を生むおそれがあるのだから。

 その群青のリーダーの蛍さんはぐしゃぐしゃと髪をかき混ぜる。さっきからずっと、蛍さんはこの場の処理に困っている。その困惑が、何のせいなのか、私には判然としない。


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