ぼくらは群青を探している
花火が完全に終わる前に帰ろうとする人々の中に紛れながら、ゆっくりと、今日の情報を整理する。先輩達はちゃんと助けに来てくれた。一番怪しい能勢さんが社の場所を九十三先輩に伝えた。蛍先輩は自分が雲雀くんの立場でも同じことをすると言った。演技で口にできるとしたら、さすがにクサすぎる。
やはり新庄と組んでいるのは能勢さんだけで……、例えば私を人質にする程度の予定で、写真は想定外だったとか。そうだとして私を人質にすることに何の意味が? 桜井くんと雲雀くんという戦力を群青から削ぐこと? せっかく群青に入れたのに? 何のために?
やっぱり三人寄ればなんとやら、と二人に頼るのが正しいのだろうか……。
「つか英凜、気になってたんだけどさあ」
「……ん?」
「群青のOBだって言った連中? なんで偽物だって分かったの?」
「ああ……。その人達、多分、私と陽菜に、自分達が群青のOBだってことを信じさせたくて群青の情報を色々話したんだけど、その中に……蛍さんの家族の話があって」
蛍さんに聞こえないよう、声を潜める。
「……群青の先輩達って、みんな、家族の話、しないでしょ。そういう、なんだろう、デリカシーのなさに違和感があったっていうのかな。だから名前を聞いたら群青のOBの名前じゃなくて……」
「……お前群青のOBの名前なんて知ってんの?」
「前に九十三先輩が名簿をくれたことがあって」
「ん、俺?」
雲雀くんの相槌は普通のトーンだったので、聞きつけた九十三先輩が振り返った。
「あ……えっと、勉強会で、群青の名簿をくださったことがあったじゃないですか。あの名簿、去年のものでしたよね?」
「あー、あーそうかも。あれ去年の卒業焼肉パーティのときのだから」
「あの名簿を見て……、群青の一個上の先輩達の名前を覚えてたので、私と友達に声をかけた二人組が、適当な群青の先輩を騙ってるって気付いたって話です」
「え、マジちょっと待って、三国ちゃんどんだけ記憶力いいの? 会ったこともない先輩の名前覚えてんの?」
「だって名簿を見たから……」
「すげー! 俺もそんくらい頭良くなりたい! 単語テスト満てイテッ」
よく見えなかったけど、どうせ蛍さんに蹴られたか踏まれたのかしたのだろう。九十三先輩は黙った。
「……よかったな、記憶力よくて。そのお陰で分かったんだろ」
「まあ……。そうだね、どっちかいうと取っ掛かりの、デリカシーのほうの問題かもしれないけど……」
「でも俺だったら絶対気にしないと思う。へー、そうなんだーみたいな感じで流して終わる」
でも、そうやって、桜井くんも雲雀くんも「その聞いた蛍先輩の家族の話ってなんだったの?」とは言わないんでしょう? その、二人のような人にはできる無意識の気遣いが意識的にしかできない人間には違和感になるんだと言いたかったけれど、黙っておいた。
そうやって煽てられていた私は、そのとき、その考えには及ばなかった。参道から外れ、ろくに明かりのないあの社の前で、私の浴衣を「群青色」と言い切ることはできないと。他の明るい場所で見たか、明るい場所で撮られた写真を見ていた以外に、能勢さんが、私の浴衣の色を知るすべはなかったのだと。
ほんの、そこまで。後になって思えば、もう一歩と言うべき思考。ほんのそこまでの、たったそれだけの一歩にさえ気付いていることができていれば、そうすれば、きっと──。
やはり新庄と組んでいるのは能勢さんだけで……、例えば私を人質にする程度の予定で、写真は想定外だったとか。そうだとして私を人質にすることに何の意味が? 桜井くんと雲雀くんという戦力を群青から削ぐこと? せっかく群青に入れたのに? 何のために?
やっぱり三人寄ればなんとやら、と二人に頼るのが正しいのだろうか……。
「つか英凜、気になってたんだけどさあ」
「……ん?」
「群青のOBだって言った連中? なんで偽物だって分かったの?」
「ああ……。その人達、多分、私と陽菜に、自分達が群青のOBだってことを信じさせたくて群青の情報を色々話したんだけど、その中に……蛍さんの家族の話があって」
蛍さんに聞こえないよう、声を潜める。
「……群青の先輩達って、みんな、家族の話、しないでしょ。そういう、なんだろう、デリカシーのなさに違和感があったっていうのかな。だから名前を聞いたら群青のOBの名前じゃなくて……」
「……お前群青のOBの名前なんて知ってんの?」
「前に九十三先輩が名簿をくれたことがあって」
「ん、俺?」
雲雀くんの相槌は普通のトーンだったので、聞きつけた九十三先輩が振り返った。
「あ……えっと、勉強会で、群青の名簿をくださったことがあったじゃないですか。あの名簿、去年のものでしたよね?」
「あー、あーそうかも。あれ去年の卒業焼肉パーティのときのだから」
「あの名簿を見て……、群青の一個上の先輩達の名前を覚えてたので、私と友達に声をかけた二人組が、適当な群青の先輩を騙ってるって気付いたって話です」
「え、マジちょっと待って、三国ちゃんどんだけ記憶力いいの? 会ったこともない先輩の名前覚えてんの?」
「だって名簿を見たから……」
「すげー! 俺もそんくらい頭良くなりたい! 単語テスト満てイテッ」
よく見えなかったけど、どうせ蛍さんに蹴られたか踏まれたのかしたのだろう。九十三先輩は黙った。
「……よかったな、記憶力よくて。そのお陰で分かったんだろ」
「まあ……。そうだね、どっちかいうと取っ掛かりの、デリカシーのほうの問題かもしれないけど……」
「でも俺だったら絶対気にしないと思う。へー、そうなんだーみたいな感じで流して終わる」
でも、そうやって、桜井くんも雲雀くんも「その聞いた蛍先輩の家族の話ってなんだったの?」とは言わないんでしょう? その、二人のような人にはできる無意識の気遣いが意識的にしかできない人間には違和感になるんだと言いたかったけれど、黙っておいた。
そうやって煽てられていた私は、そのとき、その考えには及ばなかった。参道から外れ、ろくに明かりのないあの社の前で、私の浴衣を「群青色」と言い切ることはできないと。他の明るい場所で見たか、明るい場所で撮られた写真を見ていた以外に、能勢さんが、私の浴衣の色を知るすべはなかったのだと。
ほんの、そこまで。後になって思えば、もう一歩と言うべき思考。ほんのそこまでの、たったそれだけの一歩にさえ気付いていることができていれば、そうすれば、きっと──。