ぼくらは群青を探している
「……桜井くんと雲雀くんは平気。でも群青の先輩達もきっと平気だと思う」
「そう?」
「うん、さすがに一対一とかになると桜井くんと雲雀くんくらいしか無理かもしれないけど。別に、暗がりじゃないし……突然、身近な誰かに襲われたわけでもないし。大丈夫だよ」
本当は、一昨日の光景は頭から離れなかったし、何度もフラッシュバックするし、昨晩も夢に見ていたけれど。桜井くんと雲雀くんのことが怖くないのは本当だし、きっとあの日に助けてくれた群青の先輩達のことも怖くはない。
「……あそ。そんならいいけど」
「安心と信頼の桜井と雲雀、でしょ」
美人局事件のときに、桜井くんが言った言葉だ。なんなら、桜井くんとは、偽の証拠作りのために再度ラブホテルへ入っている。それでも何も起こらなかったことの意味が、今ならちゃんと分かる。
桜井くんは頭の後ろで腕を組んだまま、さっきとは違う表情をした。
「……まーね」
でもやっぱり、その表情の内容は私には分からない。
雲雀くんの家は、桜井くんが「ボンボン」と言っていたとおり、高級住宅街にドンと構える戸建だった。うちとは地価から違うはずなのに、ガレージだけでもうちの居間と台所くらいの広さがある。しかも駅からほどよく離れた一区画をまるごと占領していた。城塞のように敷地を囲む白い塀は夏の太陽を反射していてチカチカと眩しい。
「……すごい」
「いつ見ても威圧感あるなあ、この家」
桜井くんはいつもどおりの呑気な声を出したけれど、私は手の中にある小ぢんまりとした土産を自信なく見下ろす羽目になった。でも桜井くんの手の中にあるのは今日もミセスドーナツなので勇気を貰える。
シーソー、と桜井くんがチャイムを鳴らすと、足音がして、鍵の開く音と同時に扉が開く。家にいる雲雀くんは、いつもより髪が大人しい──というか、全くセットしていなかった。なされるがままに流れている銀髪は新鮮だった。
「……本当に来たんだな」
「来るって言って来ないのはただの嘘じゃん」
「……そうだけど」
あがりな、と雲雀くんは中に入れてくれた。広々とした家に見合う、洋風の玄関だった。ただ、靴箱 (と呼んでいいのかは分からないくらい立派な、でも靴箱)の上は、美的センスの欠片もない私でさえ、なにか置物でも飾ればいいのに、と思うほど妙にガランとしていた。
「あー涼し。今日マジ暑くない? 朝冷房付けるか悩んだ」
「つければいいだろ」
「もったいないじゃん。あの家、無駄に風通しいいんだもん」
通されたリビングには、優に五、六人は座れそうな広々としたソファと大きなテレビがあって、そのうえ螺旋階段まである。リビングからは見えにくいけれど、隣のダイニングもかなりの広さだ。
さすが、一区画をまるごと占領している見た目のとおり……。他人の部屋をじろじろと見るのはちょっと品がないような気もしたけれど、ついつい見てしまった。いままで訪れたことのある家で一番豪華かもしれない。といってもそんな家の数はたかが知れているけれど。
「麦茶でいいよな」
「いいよー」
「え、っていうかそういうのしなくて大丈夫。お見舞いに来たんだから……」
慌ててダイニングに行くと、雲雀くんは早速冷蔵庫を開けるわ棚からグラスを取り出すわで全く大人しくしている気配がない。でもやっぱり使っているのは右腕ばかりだ。でも利き腕だと言い訳されると何も言えない。
「そう?」
「うん、さすがに一対一とかになると桜井くんと雲雀くんくらいしか無理かもしれないけど。別に、暗がりじゃないし……突然、身近な誰かに襲われたわけでもないし。大丈夫だよ」
本当は、一昨日の光景は頭から離れなかったし、何度もフラッシュバックするし、昨晩も夢に見ていたけれど。桜井くんと雲雀くんのことが怖くないのは本当だし、きっとあの日に助けてくれた群青の先輩達のことも怖くはない。
「……あそ。そんならいいけど」
「安心と信頼の桜井と雲雀、でしょ」
美人局事件のときに、桜井くんが言った言葉だ。なんなら、桜井くんとは、偽の証拠作りのために再度ラブホテルへ入っている。それでも何も起こらなかったことの意味が、今ならちゃんと分かる。
桜井くんは頭の後ろで腕を組んだまま、さっきとは違う表情をした。
「……まーね」
でもやっぱり、その表情の内容は私には分からない。
雲雀くんの家は、桜井くんが「ボンボン」と言っていたとおり、高級住宅街にドンと構える戸建だった。うちとは地価から違うはずなのに、ガレージだけでもうちの居間と台所くらいの広さがある。しかも駅からほどよく離れた一区画をまるごと占領していた。城塞のように敷地を囲む白い塀は夏の太陽を反射していてチカチカと眩しい。
「……すごい」
「いつ見ても威圧感あるなあ、この家」
桜井くんはいつもどおりの呑気な声を出したけれど、私は手の中にある小ぢんまりとした土産を自信なく見下ろす羽目になった。でも桜井くんの手の中にあるのは今日もミセスドーナツなので勇気を貰える。
シーソー、と桜井くんがチャイムを鳴らすと、足音がして、鍵の開く音と同時に扉が開く。家にいる雲雀くんは、いつもより髪が大人しい──というか、全くセットしていなかった。なされるがままに流れている銀髪は新鮮だった。
「……本当に来たんだな」
「来るって言って来ないのはただの嘘じゃん」
「……そうだけど」
あがりな、と雲雀くんは中に入れてくれた。広々とした家に見合う、洋風の玄関だった。ただ、靴箱 (と呼んでいいのかは分からないくらい立派な、でも靴箱)の上は、美的センスの欠片もない私でさえ、なにか置物でも飾ればいいのに、と思うほど妙にガランとしていた。
「あー涼し。今日マジ暑くない? 朝冷房付けるか悩んだ」
「つければいいだろ」
「もったいないじゃん。あの家、無駄に風通しいいんだもん」
通されたリビングには、優に五、六人は座れそうな広々としたソファと大きなテレビがあって、そのうえ螺旋階段まである。リビングからは見えにくいけれど、隣のダイニングもかなりの広さだ。
さすが、一区画をまるごと占領している見た目のとおり……。他人の部屋をじろじろと見るのはちょっと品がないような気もしたけれど、ついつい見てしまった。いままで訪れたことのある家で一番豪華かもしれない。といってもそんな家の数はたかが知れているけれど。
「麦茶でいいよな」
「いいよー」
「え、っていうかそういうのしなくて大丈夫。お見舞いに来たんだから……」
慌ててダイニングに行くと、雲雀くんは早速冷蔵庫を開けるわ棚からグラスを取り出すわで全く大人しくしている気配がない。でもやっぱり使っているのは右腕ばかりだ。でも利き腕だと言い訳されると何も言えない。