ぼくらは群青を探している
 カバンの奥底から取り出した携帯電話には、ストラップも何もついていない。二つ折りのそれをパチンと開き、番号「1」に登録してある家に電話をかける。何度かコール音は鳴ったけれど、おばあちゃんは電話に出なかった。番号「2」に登録してあるおばあちゃんの携帯電話も同じく。


「……電話、出ないから、またあとでかける」

「メールは?」

「おばあちゃん、メールは分からないんだよね」


 桜井くんと雲雀くんがちょっとだけ止まった――気がした。でも二人は「んじゃ後にすっか」「どこ行く?」「だらだらしてても怒られねーって言ったら西中の近くにあるガスツじゃね」と話を続けるので、きっと気のせいだろう。


「三国、お前チャリ?」

「ううん、バス」

「えー、まじか。どうする、チャリおいてく?」

「ニケツすればいんじゃね。俺の、荷台ついてるし」


 話が読めずにいる私を無視し、雲雀くんは背中に引っかけるようにしてカバンを持った。


「行こうぜ、三国」


 ドキリと、胸の奥で心臓が跳ねた。

 その高揚感のせいで、教室内の観察はし損ねた。みんなが私を見ていたのか、見ていたとしたらどんな顔で見ていたのか、私の頭にはさっぱり情報が入ってこなかった。なんなら、そんなことは駐輪場に行くまで忘れていた。


「つかさあ、三国、俺らとつるんでていいの?」


 桜井くんに言われて初めて我に返った。そのくせ、桜井くんは私のカバンを受け取って自分の自転車の籠に入れてくれている。


「変な目で見られない? 俺らこんなだし」

「……分かんない」

「まあ分かんねーけど、多分そうなるぞ」

「桜井くんは金髪で、雲雀くんは銀髪だから?」

「うーん、まあ、そのくらいならよかったんだけど」

「三年ぶっ飛ばしちまったからな。蛍さんには断ったけど、遅かれ早かれ、群青(ブルー・フロック)に入る気がすんだよな」


 ガチャン、と雲雀くんは自転車の鍵を開けた。さっき話していたとおり、雲雀くんの自転車には荷台がついている。


「そうなったとき、俺らと仲良くしてると、面倒かもな。特に三国、見た目は真面目で普通の優等生だし」


 つい、苦笑いしてしまった。二人からそう見えているのだと思うと、なんだかほっとした。

 それに、いざ現場を見ると警戒せざるを得ないのに、ついついこうして一緒にいてしまうのは、この二人の性格がそこまで乱暴に思えないからだ。それこそ、二人に夕飯に誘われるのは、陽菜に夕飯に誘われるのと大差ない。


「大丈夫だよ。群青(ブルー・フロック)の人達は、女子には興味ないでしょ?」

「うーん、まああるっちゃあるけど、ないっちゃないな。つか俺らが言いたいのはそういうことじゃねーんだけど」

「……三国がいいならいいか。乗りな、三国」


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