ぼくらは群青を探している
「……勘違いって、どういうこと? てか勘違いってことは、体弱くないんだよな?」

「うん、全然。夏祭りの日、桜井くんにも話したでしょ、私のアンバランスな性質を両親が心配して田舎(こっち)に住ませてるって。結局そのアンバランスな性質のことって──これも雲雀くんには夏休みの前に話したことだけど、精神科の医者にいわせれば“病気”の要素だったし、それを聞いた両親からすればもうそれは“病気”でしかなかったんだよね」


 桜井くんの視線が緩やかに動いた。天真爛漫(てんしんらんまん)でなんでもありのままをそのまま受け入れるような桜井くんにとっても、ちょっとリアクションに困る話だったのだろう。


「結果、環境かストレスが問題かもって言っておばあちゃんの家に来ることになって……で、そんな両親だから中学校の先生にも“病気なので”くれぐれもよろしくみたいな言い方して、それで中学の先生が『三国さんは病気なので』みたいなアナウンスしたっていう」

「あー……」


 桜井くんは納得したような、それでいて納得の声を出すのは不適切であるかのような気がして正面からそんな声を出すことはできないような、そんな微妙な声を出した。でも私の話の意図は伝わったらしく「まあ、そういうことなあ……」と頷く。


「……それで舜は英凜の体が弱いって思いこんでるってこと? ま、そうなるか、俺でもそう思うかも。でも英凜がそんな体弱いってイメージないよな。一緒に遊んでるうちに忘れそう」

「……そこなんだよね」


 まったくもって、桜井くんのいうとおりだ。桜井くんの今の言葉はまさしく、「ごく自然に考えればそうなる」ということの裏付けなのだ。


「荒神くんも同じことを言ってた。それこそ荒神くんだって、いわく女子の情報に詳しいから覚えてるだけで、そうじゃなきゃ忘れてると思うって言ってたし」

「まあアイツはね、そういうこと覚えてそう。でもって舜は他人に言わねーよな、そういうこと」


 そして、そこはやはり雲雀くんと桜井くんは同意見だった。つまり、荒神くんが誰かに私の『体が弱い』なんて言いふらす可能性はほぼない。


「で……この流れでそういうってことは、能勢さんは三国の『体が弱い』って勘違いしてんのか?」

「……そう。勉強会してる頃に、能勢さんに言われたの。蛍さんが私を可愛がるのはなんでだろうって話のときに『三国ちゃん、体弱いんでしょ』って」

「能勢さんと舜に接点ないしなあ、知ってるのは変っちゃ変だよな」


 二人は話が早い。お陰で私の推論はどんどん二人の思考に組み込まれて行くのが分かる。


「で、他に誰が知ってんの、それ」

「……新庄」


 二人の顔つきが変わった。一昨日の今日だ、もしかしたら今日その名前を出すことにはいつも以上の意味があったのかもしれない。


「……新庄はなんで知ってる」


 ゆっくりと、まるで牙を()くように、雲雀くんの低い声が(いぶか)しむ。美人局の一件のときに、私が新庄に何をされたか、黙っていたときの声音に似ていた。


「……春頃、私が新庄に拉致(らち)されたことがあったでしょ。あのとき、新庄にとっては私一人いればよかったんだけど、荒神くんが機転を利かせて一緒に来てくれたの。そのときの口実が、三国は体が弱いからついていきます、だった」

「それを舜が新庄の前で話してるってことか」

「まあ。正確には、荒神くんがそう言ったから連れてこざるを得なかったって話を新庄の仲間が新庄にしてた」

「フーン……」


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