ぼくらは群青を探している
 桜井くんはクッションを抱えたまま、肘掛(ひじかけ)に頭を預けるようにして倒れた。


「……で、能勢さんがそれを知ってる。有り得ないよなー、新庄から聞く以外」

「……まあ東中のヤツから聞いてる可能性もなくはないが、三国に体が弱いなんてイメージねーし、具体的に心臓が弱いだのなんだの聞かされたわけでもねーのに中二の頃──二年前にチラッと聞いた、仲良くもない女子の話なんて今更誰も覚えてねーだろうし……。蛍さんとかはどうなんだ、知ってんのか」

「……少なくとも、今のところ蛍さんの口からそのワードを聞いたことはない。で、蛍さんとも中学で接点はないから知らないいはず。もし知ってるとしたら、やっぱり新庄から聞いたくらいしか有り得ないんじゃないかと……」

「ってことは永人さんと能勢さんと新庄、ここ全部グルの可能性あるのか。キッツ」


 むくりと起き上がった桜井くんは、そのままズルズルとソファの上で滑り、頭を背もたれに当て、腰から下を床に投げ出す形になった。


「てか普通に考えたくないなー……永人さんが新庄(ゲス)と組んでるとか」

「考えにくくもあるよな。蛍さん、マジで外道と喫煙者嫌いだし。なんなら顔面至上主義者も嫌いだろ、新庄なんて(やく)(まん)じゃねーか」


 新庄は顔面至上主義者なのだろうか……。今後も知る機会はないかもしれないけれど、一般にゲスと括られる男子が女子の顔面を気にしない可能性は低そうなので、きっとそうなのだろう。


「……じゃあ動機の話に戻るか。仮に蛍さんと新庄が組んでるとして、何の得がある」

「そこなんだよね……。最初、新庄が私を拉致したときは、桜井くんと雲雀くんを群青に入れるためっていう動機が成り立った。でも今はそれじゃ成り立たない」

「じゃあ逆に、新庄が深緋を裏切ってこっちに情報を流してる、とか。アイツが仲間になるなんてヤダけど」


 ……確かに、そちらの方向では考えていなかった。むしろ新庄のゲスさを考えれば、属している組織に素直に従わず、むしろコウモリのようにあっちを裏切りこっちを裏切りしているほうが納得がいく。

 ただ、逆にいえば、新庄が深緋でなく群青に味方をする理由もない。それに……。


「……でも、そうだとしたら……、私を襲った理由は……?」


 赤倉庫で、黙っておけば強姦なんて明るみにならないのだと、私を脅した新庄。一昨日の件だって新庄は噛んでいたはずだ。あれが両方ともハッタリだったとは思えない。


「英凜が永人さんのお気に入りってのを利用して、英凜を襲うことで群青全体を巻き込んで深緋を潰そうとしたとか。これは永人さんが新庄と組んでない前提だけど。てか、そもそも新庄の趣味って可能性もあるな。一昨日の件まで能勢さんが噛んでるかどうかって分かんないんだろ?」


 桜井くんの指摘はある意味もっともだった。仮に能勢さんが新庄と組んでいるとしても、その力関係というか、能勢さんがどこまで新庄を制御できるかはまた別の話。手の組み方次第では、新庄の動きには能勢さんの指示によるものと新庄自身の判断によるものとが存在することになる。

 実際、新庄がそう簡単に他人に(ぎょ)されるタイプには見えない。いくら能勢さんや……蛍さんがいるとしても、自分達に支障のない範囲なら好きにやっていい、程度でしか関係を持つことはできない可能性は高い。


「……新庄の独断の動きもあるのかもしれないけど、一応、一昨日の件については、能勢さんが怪しい点はある」

「というと?」

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