ぼくらは群青を探している
「……きっと二年経ったら、桜井くん達も不気……、曲者の先輩って言われてるんだろうね」

「いま不気味(ぶきみ)って言おうとしたよな」

「言ってない」

「言おうとしたよなつってんだよ」

「侑生はともかくとして俺はなんで?」

「桜井くん、ボケボケしてるのに急に頭のキレを見せてくるから、下手したら雲雀くんより不気味だと思う」

「これ俺馬鹿にされてる?」

「つか不気味つったよな」

「大体、英凜のほうが絶対不気味だぜ」

「えっ」


 不気味だと……。自分が他人に向けた形容が返ってきた途端ショックなものに思えた。桜井くんは「え、そんなヤなこと言った?」と眉を(ひそ)める。


「だって普通科なのにずっと学年トップで、一年のときから中津(しゃてい)がいて」


 中津くんと書いて舎弟と読む……。実際、中津くんは廊下ですれ違うたびに敬語で挨拶をしてくる。お陰で隣の荒神くんが「え、なに?」なんて顔をしている始末だ。もちろんその場に居合わせる他の一年生も同じく。結果、なぜか「中津は五組の桜井、雲雀そして三国の舎弟らしい」なんて噂が流れている。


「そんでもって三年のリーダーの愛人で、って言われるんだぜ。もしかしたら俺らっていう番犬がついてるみたいに言われるかもしれないし」

「……確かに……!」


 実際、既にクラスメイト達から向けられる目には恐怖と畏敬と疑念が含まれている気がしてならない。

 いかんせん、群青の先輩達は平然と教室に入ってくるし、だからクラスメイト達の目の前で先輩達と喋る様子を目撃される。しかも廊下に(たむろ)ろしていて、当然すれ違えば挨拶もする。それ自体は部活の先輩後輩と大差ないと思っていたら、陽菜から「ぶっちゃけ英凜が隣にいなかったら通れないわ。群青のゴツめの先輩らが屯ってんの怖くね?」と言われて、自分の感覚が麻痺していることに愕然(がくぜん)とした。それ以外にも、どこからか「三国ちゃんやっほー!」なんて声が聞こえたかと思ったら隣の校舎の窓から手を振られていたりする。誰かがマサイ族並みの視力を持っているに違いない。


「つか英凜、既に多田(ただ)とかに言われてんじゃん、英凜の着替え覗いたら学校帰りに群青の襲撃に()うって」

「悪質な冗談だよね」

「なんたってマジでやられそうだからな」


 ……本当に悪質だ。やめてほしい。


「てか話戻っていい?」


 もう何の話だったか忘れてしまった。首を捻っていたけれど「結局ツクミン先輩は信用できるけど、能勢さんは結構黒に近いグレーだよなって話だよな?」思い出した、そういえばそんな話をしていたんだった。


「とりあえず能勢さんに注意してればよくね? 能勢さん以外にも新庄とつるんでるヤツがいるとしても、あの能勢さん差し置いて別のヤツが頭になってるなんて考えらんないし。だったら英凜の情報が能勢さんに渡るかどうか、そこのラインに注意してればどうにかはなるんじゃねーの?」

「……まあ、そう、だね……」

「あとツクミン先輩は白だからあんま警戒しないでオッケー。問題は永人さんだけど……」

「蛍さんに三国の体が弱いって情報を使うのはありかもしれねーな。群青のトップ二が同時に深緋と通じてるってのは考えにくいし、なによりあの二人を同時に警戒するってのは疲れる」

「情報を使うって?」

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