ぼくらは群青を探している
 自転車に(またが)った雲雀くんはしごく当然のように荷台を(あご)で示した。乗れと言われても、どうやって? 自転車の二人乗りなんて、幼い頃におばあちゃんに乗せてもらった以外に経験がない。


「……これ、跨ればいいの?」

「まあどうでもいいけど。跨ってくれたほうが安定するから、横よりそっちにしてくれ」


 言われたとおり、おそるおそる自転車の荷台にお尻を載せた。自転車のサドルよりも表面積は広いのに、クッションがないせいですでにお尻に鉄柵(てつさく)が食い込んでいるようで痛かった。


「さすがにバイクで登校してねーからな」


 私の表情からそんなことを読み取れたのか、雲雀くんは笑った。


「免許あるの?」

「あったらよかったんだけどな」

「バイクの免許、十六歳からなんだよ」


 にやっと桜井くんは笑った。私達は今年十六歳、つまり二人の口調からすれば、無免許運転だ。


「……それはちょっと」

「大丈夫、三国乗せるまでには免許はとっとく」


 カラッとした笑い声と共に、雲雀くんがペダルを踏んだ。ぐん、と体が妙な浮遊感に襲われ、荷台についている両手を、つい、ぎゅっと握りしめた。


「なー、三国、どこらへん住んでんの?」


 私と雲雀くんの隣に、桜井くんが並んだ。自転車の二列並走は禁止だと注意する中学生のときの担任の先生と、そのホームルームの様子が脳裏(のうり)(よぎ)ったけれど、多分二人にそんなことを言っても意味がないし、今のところは他の自転車や歩行者の迷惑になっている気配はない。なにより、桜井くんの顔を見ながら話せるほうが嬉しかったから、口には出さずにおいた。


「……藍海(あいみ)区」

「んげ、じゃあ西中のほうのガスツ行ったら真逆じゃん」

「東中出身の時点でそうだろ、何言ってんだ」

「藍海区のほうにファミレスある?」

「あるよ。それこそ東中の近く」

「そっちにすっか」

「え、いいよ、その西中の近くのほうで」

「俺らと一緒に夜遅くまでウロウロしないほうがいーよ。三国がブスだったらいくら連れまわしても大丈夫なんだけど」


 多分褒められているのだけれど、あまり褒められている気がしなかった。

 二人は、そんな話をしながら自転車を()いだ。私の視界には、桜井くんの顔と雲雀くんの後頭部がずっと見えていた。風に揺れる金と銀が、春の水色の空の中に煌めく。

 今度は、失敗しないようにしよう――。雲雀くんの後ろで、そっと小さな決意をした。

 二人は結局、東中の近くのファミレスを選んでくれた。二人を見た店員さんは一瞬表情を変えたけれど、何も言わなかった。

 テーブル席に案内され、雲雀くんが手前の座席に座ったので、なんとなく反対側のに座った。桜井くんはごく自然に私の隣に座った。


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