ぼくらは群青を探している
「ま、胡桃のことだから中学でそんなこと言ってたとか忘れてんだろ。つかそれいつの話?」

「……いつだっけ。中学のどっかだとは思うけど、一色駅(いちえき)前のジャンカラで見かけたとき、なんか男にフラれたらしくて、んで自分はそこそこ可愛いし勉強もできるし、家にも問題ねーし、それなのに何が悪いんだみたいなこと言ってた」


 あんなにかわいい胡桃でも男子にフラれることがあるんだ……。そこじゃない、と言われてしまいそうなところについつい頷いてしまった。群青の先輩達も口を揃えて「可愛い」「いるだけで癒し」と言うのに。なんなら土下座をしてでも付き合いたい男子のほうが大半じゃないだろうか。


「胡桃、そういうとこなんかズレてるよなー。女子好きになるときに勉強とか家とかどうでもよくね? 気にする?」

「俺は勉強すらできないバカ嫌いだけどな」

「可愛いのは必要なんだ……」


 胡桃の可愛さに思いを馳せてしまっていたせいで、ついそんなところに注目してしまった。ただ、二人は黙りこんだので図星だったらしい。


「……いやあのね」先に口を開いたのは桜井くんで「……英凜だって富田を好きになれるかって言われたら無理だろ?」

一昨日、夏祭りで私達を襲った深緋の幹部の一人。ボウズ頭に(いか)つい()り込みを入れた巨漢(きょかん)、一言で説明するならまるで半グレの典型のような見た目。とはいえ、その容姿以上の問題がありすぎる。


「それは……見た目以上の情報がありすぎてちょっと」

「でも女子はイケメン好きだろ! 侑生の顔とかさあ! コイツ去年のバレンタイン五十個くらい貰ってるからねマジで!」


 そりゃあ雲雀くんの顔は……。思わず見てしまった後でつい逸らした。イケメンの顔としてちゃんと見ると気恥ずかしいものがある。


「……そりゃ、雲雀くんの顔は……自他ともに認めるイケメンみたいな……」

「こんな女みたいな顔してるのに!」

「うちじゃなかったら麦茶かけてんぞお前」

「でも私は桜井くんの顔も好きだよ」

「ほんと? 俺も英凜の顔好きー」


 雲雀くんばかり褒めても不公平かな、と思ってつい口にすると、懐ききった犬のような笑顔が褒め返してくれた。顔が好きというのはセーフらしい。よく分からない。


「てか暇じゃない? 映画でも見よ」


 ドーナツを食べ終わった桜井くんは我が物顔でキッチンで手を洗い、そのままテレビ台の中に入っているDVDを物色し始める。どちらがこの家の子なのか分からない。


「お前本当に人の家で好き勝手するよな」

「侑生だって俺の家で好き勝手してるじゃん」

「そうなの?」

「まあ飯作るときにコイツの許可は取らない」


 どちらかというと雲雀くんが桜井くんの家でご飯を作っている事実のほうが気になった。でもそうか、桜井くんの家に遊びに行って、夕飯の時間になったら一緒に作って食べてるのか……。……仲良しだな。知ってたけど。


「あれ、『stand by me』ある」

「なにそれ?」

「俺も知らね。父親のだし」

「前なかったよな? おじさんが最近見たのか?」


 桜井くんがヒラヒラと振って見せたパッケージには四人の少年が写っていた。どことなく八〇年代か九〇年代っぽさが漂っているので、それこそ雲雀くんのお父さんが学生だった頃に気に入って買ったのだろう。


「桜井くん知ってるの?」

「なんか父さんと母さんが初デートで見た映画なんだって。見たことはないけど」

「ジャンルは?」

「んーと……死体探しをする青春?」

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