ぼくらは群青を探している
「は?」
怪訝な声を発した雲雀くんが立ち上がり、桜井くんの手からDVDのパッケージを受け取った。私もつい立ち上がって一緒にそのあらすじを覗き込む。
四人の十二歳の少年が、行方不明とされていた少年が死体になって放置されていると聞いて、死体を見つければ英雄になれると死体を探しに行く映画、らしい。主人公が大人になってから少年期を回想するという設定で語られる青春もの。確かに要約すると「死体探しをする青春」だ。
十二歳の少年が主人公とはいえ、私達が見て楽しいのだろうか。はて、と私は首を捻ったけれど、雲雀くんは「まあ見てもいいけど」とまんざらでもない。桜井くんは慣れた手つきでビデオデッキの電源を入れる。
その間にパッケージを開いてもう少し詳しいあらすじを見た。兄を亡くし、両親からも冷遇されている主人公のゴーディ、賢いけど家庭環境が悪いクリス、父親の虐待を受けているテディ、太って鈍間で不良の兄を持つバーン……。家族関係の複雑さからシンパシーを抱いて一緒にいる四人組、そんな括り方をすると、急に私達に近いものがある気がしてくる。つまらないかと思ったけど、存外面白いかもしれない。
「英凜、DVDとって」
「ん」
ディスクを渡す後ろで、雲雀くんがいなくなる気配がした。ガチャリと扉の音も聞こえたからトイレにでも行ったのだろう。
「……そういえば、桜井くんのお父さん、お盆は帰ってくるの?」
「んー、うん、らしいよー。さすがにケータイ買ってくれって言おうと思う、一昨日マジで困ったし」
桜井くんは、もしかして真っ先に駆け付けられなくて悪かったと思っているのだろうか。今まで蛍さんに散々言われてもその必要性を理解していなかったのだから、それ以外に心境の変化を理由づけるものはない。雲雀くんの家に来る前に「助けたのは侑生じゃん」と言ったときの笑みも、罪悪感からくる自嘲の笑みだったとすれば説明がつく。
「……桜井くんが来てくれたの、全然遅くなかったよ」
「俺がケータイ持ってたら、連絡したの俺だった?」
「え」
もっと早ければよかったとか、そういった類の返答があるとばかり思っていたので素っ頓狂な声が出てしまったし「どうなんだろう……」とつい口にしながら考え込んでしまった。桜井くんはDVDを再生する準備をしていて、顔は見えなかった。
「急いでたから履歴からかけたんだけど……だから、桜井くんから電話かかってることあったらそうだったかな……」
そもそもほとんど電話なんてかかってこないし、おばあちゃんとの電話は私から電話をかけるので着信履歴には残っていない。結果、私の着信履歴は九割雲雀くん、一割群青の先輩だ (あの人達は面倒くさがりなのか、すぐに電話で呼び出そうとする)。しかも九割といったって、雲雀くんからかかってくる電話の半分は雲雀くんの携帯電話を借りた桜井くんだし、いずれにしても「今日あそぼ―」というだけだし、私が個人的に雲雀くんと電話でお喋りをしているわけではない。
そう考えると、桜井くんが携帯電話を持っていたら、通話履歴の一番上は桜井くんだった可能性もある。そこの確率は二分の一だろう。
「でも桜井くんと雲雀くん、一緒にいたわけだし、連絡するのが桜井くんでも来れたタイミングは一緒だったんじゃないかな」
桜井くんは黙った。それはそうだなと納得しているのだろう。リモコンを持ってソファに戻り、そのままポフンと沈み込む。
「……そうだな」
怪訝な声を発した雲雀くんが立ち上がり、桜井くんの手からDVDのパッケージを受け取った。私もつい立ち上がって一緒にそのあらすじを覗き込む。
四人の十二歳の少年が、行方不明とされていた少年が死体になって放置されていると聞いて、死体を見つければ英雄になれると死体を探しに行く映画、らしい。主人公が大人になってから少年期を回想するという設定で語られる青春もの。確かに要約すると「死体探しをする青春」だ。
十二歳の少年が主人公とはいえ、私達が見て楽しいのだろうか。はて、と私は首を捻ったけれど、雲雀くんは「まあ見てもいいけど」とまんざらでもない。桜井くんは慣れた手つきでビデオデッキの電源を入れる。
その間にパッケージを開いてもう少し詳しいあらすじを見た。兄を亡くし、両親からも冷遇されている主人公のゴーディ、賢いけど家庭環境が悪いクリス、父親の虐待を受けているテディ、太って鈍間で不良の兄を持つバーン……。家族関係の複雑さからシンパシーを抱いて一緒にいる四人組、そんな括り方をすると、急に私達に近いものがある気がしてくる。つまらないかと思ったけど、存外面白いかもしれない。
「英凜、DVDとって」
「ん」
ディスクを渡す後ろで、雲雀くんがいなくなる気配がした。ガチャリと扉の音も聞こえたからトイレにでも行ったのだろう。
「……そういえば、桜井くんのお父さん、お盆は帰ってくるの?」
「んー、うん、らしいよー。さすがにケータイ買ってくれって言おうと思う、一昨日マジで困ったし」
桜井くんは、もしかして真っ先に駆け付けられなくて悪かったと思っているのだろうか。今まで蛍さんに散々言われてもその必要性を理解していなかったのだから、それ以外に心境の変化を理由づけるものはない。雲雀くんの家に来る前に「助けたのは侑生じゃん」と言ったときの笑みも、罪悪感からくる自嘲の笑みだったとすれば説明がつく。
「……桜井くんが来てくれたの、全然遅くなかったよ」
「俺がケータイ持ってたら、連絡したの俺だった?」
「え」
もっと早ければよかったとか、そういった類の返答があるとばかり思っていたので素っ頓狂な声が出てしまったし「どうなんだろう……」とつい口にしながら考え込んでしまった。桜井くんはDVDを再生する準備をしていて、顔は見えなかった。
「急いでたから履歴からかけたんだけど……だから、桜井くんから電話かかってることあったらそうだったかな……」
そもそもほとんど電話なんてかかってこないし、おばあちゃんとの電話は私から電話をかけるので着信履歴には残っていない。結果、私の着信履歴は九割雲雀くん、一割群青の先輩だ (あの人達は面倒くさがりなのか、すぐに電話で呼び出そうとする)。しかも九割といったって、雲雀くんからかかってくる電話の半分は雲雀くんの携帯電話を借りた桜井くんだし、いずれにしても「今日あそぼ―」というだけだし、私が個人的に雲雀くんと電話でお喋りをしているわけではない。
そう考えると、桜井くんが携帯電話を持っていたら、通話履歴の一番上は桜井くんだった可能性もある。そこの確率は二分の一だろう。
「でも桜井くんと雲雀くん、一緒にいたわけだし、連絡するのが桜井くんでも来れたタイミングは一緒だったんじゃないかな」
桜井くんは黙った。それはそうだなと納得しているのだろう。リモコンを持ってソファに戻り、そのままポフンと沈み込む。
「……そうだな」