ぼくらは群青を探している
 その桜井くんの返事の微妙なニュアンスに疑問を抱いたのは一瞬で、扉の開く音とキッチンからの食器の音でソファを立つ羽目になった。また雲雀くんが働いている。今度は何をし始めたのかと思ったらヤカンがコンロに載っていた。


「……雲雀くんって働き者なの?」

「普通じゃね。前回俺の饅頭に三国がお茶沸かしたから」

「だから今日は雲雀くんのお見舞いで……」

「んじゃお茶淹れて。淹れたことない」


 ……言われてみれば、私はおばあちゃん、桜井くんはおじいちゃんと一緒に暮らしていたから日常的に緑茶が出てくるし、自分でも淹れるけれど、普通の男子高校生は急須(きゅうす)なんて持ったことない人のほうが多いだろう。九十三先輩なんて (完全な偏見だけれど)、湯飲みにそのまま茶葉を入れても不思議ではない。


「急須どこ?」

「昴夜が知ってる」

「なに? 茶淹れんの?」


 ひょいっとリビングから桜井くんの金髪が生えてきた。そのまま我が物顔で食器棚を開け、全く迷わず急須と茶葉の缶を取り出す。本当にどっちがこの家の子か分からない。


「……仲良いよね、二人」

「ま、親いないと暇だし。つかじいちゃん死んで余計に暇になったせいかな」

「マジで急だったもんな」

「……雲雀くんもよく知ってた関係、だったの?」

「まあ」

「侑生、将棋できるからじいちゃんが気に入ってたんだよ。俺よりじいちゃんと遊んでたかもな」

「なる、ほど……」

「麻雀は教えてもらったけどメンツ足りなかったしな」


 将棋と違って、麻雀と聞くと途端に健全なイメージが損なわれるのはなぜだろう。いや、おばあちゃんもやってるし、それ自体がどうというわけではないのだけれど、高校生がやると聞くと途端にそんなイメージが湧く。しかも桜井くんのおじいちゃんが教えたなんて。この祖父にしてこの孫ありというやつに違いない。


「……去年亡くなったんだっけ?」

「そう。学校から帰ったら台所で倒れてた。くも膜下(まくか)つったっけな、そんでそのまま死んじゃった」

「……そう」


 やっぱり、年を取ってるといつ何があるか分からない。一応、おばあちゃんから私宛にはワンタッチでコールできるようになっているし、定期健康診断はいつも異常なしだし……、大丈夫だとは思うけど。


「てか英凜いれば麻雀できるのか。舜呼んで今度やろうぜ」

「私、麻雀分からないけど……」

「覚えればいいじゃん。英凜、頭良いんだからすぐ覚えるだろ」


 そう……なのだろうか? でもボードゲームは大にして記憶力がものを言うイメージがあるし、もしかしたらやれば楽しいかもしれない。例によって高校生がやるのはどうなんだという気はするけれど。


「てかツクミン先輩とか、能勢さんも麻雀好きだし。まあ能勢さんとやることあるかは分からないけど」

「……本当に群青の先輩って色々と間違ってるよね。なんていうか、集中力とか、労力を発揮する方向が」

「遊びには全力だからな。多分海でもガチビーチバレー大会やるぞ」


 頭にはゴールデンウィークのボール遊びの記憶が浮かんだ。男子に混ざって遊ぶと体力が追い付かないところを、あれはお遊びだったから (というかわりとすぐに海に投げられる遊びに変わったから)どうにかなったわけで、それこそ九十三先輩みたいな人と一緒にビーチバレーなんて、隣で撃沈してしまうイメージしか湧かない。


「……海行くのやめようかな」

「でも胡桃も来んだろ? だったらそんなガチでやんないのかな。あの人ら胡桃には優しいじゃん」

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