ぼくらは群青を探している
「女子女子してっから扱いに困ってるだけじゃねーの」

「蛍さんも私はモテないって言いきったしね」

「根に持ってる、英凜?」

「雲雀くんが鼻で笑ったところまで含めて」


 ふいっと雲雀くんは顔を背けた。じとりと睨むけれど「んで映画は? もう見れんの」と都合よくリビングに戻る。お茶は桜井くんが淹れている。ちょっとシュールな光景だ。


「見れる見れる。字幕でいいだろ」

「ああ」

「……桜井くんって、映画の英語分かったりするの?」


 てっきり吹き替え版で見るものだとばかり思っていた。桜井くんは「うーん、別に? だって俺が英語喋ることって全然なかったもん」とソファに座り、慣れた手つきでお茶を淹れながら首を捻る。


「母さんが死ぬまではおじさんもうちに来てたことあったし、母さんとは英語で喋ってたけど……途中から日本語喋れるようになってたし。従弟は日本語全然だったけど、会ってたのマジで小さい頃だし」


 従兄弟、いるんだ。頭の中には桜井くんの家で見たチビ桜井くんが浮かんだ。あれが二人いたらきっと可愛い。


「……桜井くんに似てる?」

「え、全然。シリルは金髪だったし。あ、シリルもハーフなんだけどね」


 本物のそれっぽい名前が出てきた。しかし、ハーフで子供の名前を英語名にするのと和名にするのとの違いはなんなのだろう。でも確かに桜井くんの「コーヤ」は英語でも呼びやすいから、そこは気にされてたのだろうか。


「昔は大阪住んでたけど、今どうしてんだろ。全然知らないや」


 言われてみれば、母方の従兄弟はあまり会うイメージがない……。実家にいた頃に遊びに来ていたのは父方の従兄弟ばかりだった。しょっちゅううちに遊びに来ていたせいもあって、従兄弟というよりは弟に近い。毎年夏休みと冬休みはうちに──おばあちゃんの家に家族で遊びに来ていたけど、今年はどうするのだろう。お盆になったら二、三日現れるかもしれない。


「つか映画は?」

「あー、ごめんごめん、見よ」


 オープニングで止まっているテレビ画面は、雲雀くんの催促でやっと動き出す。雲雀くんが「ここ見にくい」とぼやき「んじゃこっち座れば」と桜井くんが提案した結果、ボフンと私の隣が雲雀くんの重みで沈み込んだ。冷房でひんやりと冷えた腕に、これまたひんやりと冷えたティシャツが触れる。いつもよりも肩に神経が集中してしまったような、そんな変な感じがした。


「あれ、これ主人公十二歳なんじゃないっけ?」


 映画が始まった途端、桜井くんが怪訝な声を出す。桜井くんのいうとおり、十二歳の主人公が友達と旅に出る話ではあるけれど、主人公が過去を回想するシーンから始まるので、写ったのは四〇歳そこそこのおじさんだ。


「十二歳だった頃を回想する映画だろ」

「あー、そっか」

「【弁護士クリス・チェンバーズ 刺殺される】」


 確かこのクリスが回想に出てくる少年では……とDVDのパッケージを読み直すと、そのとおりだった。


「え……これ仲が良い子の一人が早速死ぬの?」

「え、マジ」

「死んだって記事読んだから、その友達と遊んでたこと思い出すんだろ」

「マジかー。俺が死んだらどうする? 侑生思い出す?」

「新聞に載るような死に方したらな」

「確かに……死ぬなら弁護士なったほうがいいのかな……」

「そういう話じゃないと思うけど……」


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