ぼくらは群青を探している
 場面はすぐに昔話に変わった。少年三人が秘密基地で揃ってトランプをしていて、バーンという少年が「合言葉忘れた!」とやってくる。設定のとおり、少し鈍間(のろま)な言動だ。

 そのバーンが、お兄さんが「行方不明のアイツ、死体で転がってるらしいぜ」なんて話しているのを盗み聞きしてきて、少年たちは「死体を見つけたら英雄になれる!」と死体探しに行くことに決める。行先は遠く、でも足はないので歩いていくしかなく、キャンプに出掛けるということにして四人で旅に出る。


「あー、いいなー。こういう旅してみたいよね」

「死体探しの旅をか?」

「そうじゃなくてさー、友達だけで旅に出るの。線路沿いに森の中とか、有り得ないけどさ。大人が知らないうちに住んでる町を出て、大人が思いもよらない冒険をする、みたいな」


 ああ、確かに。言われてみれば分かる気もした。私も、両親(おとな)が知らないうちに住んでる町を出て、思いもよらない冒険をしてみたい。なぜそう思うのかは分からなかったけど。

 不意に、映画の中の少年が、ライトブラウンというか、栗色というか、とにかく白人の少年らしい明るい髪色だということに注目してしまった。つい隣の桜井くんの髪色と見比べる。いつもより近くに金髪があった。


「ね、桜井くんの地毛ってこんな色なの?」

「ん? うーん、そうかも?」


 桜井くんはピンと自分の前髪を引っ張る。


「えーっと、前にこのへんに黒いのが……」

「黒くはねーだろ、お前の髪」

「金の中だからそう見えたんだよ。でもそうかも、このゴーディっぽい色かな。テディほど明るくないと思う、多分」


 本当は桜井くんのその髪をくしゃくしゃとかき分けて、根元の色を見極めてみたかった。でもさすがにそんな権利は私にはない。ちょっとだけ残念な気持ちになって映画に視線を戻す。


「【兄が死んで以来、私は内気な少年となっていた】」

「invisibleになってるって言わなかった? 透明人間とかそういう意味じゃないの?」


 よくある原文と字幕の不一致だ。とはいえ私には、言われてみれば”invisible”という単語が聞こえたな、程度だったので、桜井くんは耳が良い。現に雲雀くんが「お前耳はいいんだな」なんて茶化した。


「でも確かにな、invisibleなら両親に無視されるようになってたとか訳せばいいのに」

「……お兄さんが両親の期待通りに優秀な子で、その優秀だったお兄さんのほうが死んじゃったから、両親が意気消沈(いきしょうちん)してしまってて、お兄さんみたいに優秀ではないゴーディのことを気にかけないから、そのせいで両親に対して引っ込み思案(じあん)になってるってことなんじゃない?」

「ああ、なるほどな」

「すげー、翻訳って奥が(ふけ)えー」

「いやごめん、そう考えただけで本当にそういう趣旨なのかは分からないけど……」


 三人でブツブツ言いながら映画が進むのを見ていると、段々と主人公(ゴーディ)が兄に劣等感を抱いていたことが分かり始めた。夢の中では、両親に「お前が代わりに死ねばよかったんだ」なんて言われていて、愛情不足を感じていることがよく分かる。

 それを見ていると、最初に自分が抱いた感情に説明がついた気がした。

 私にも、優秀な兄はいる。私と比べてどうかは知らないけど、世間的には優秀だ。そして、兄は私みたいにIQテストを受けさせられたことなんてない。

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