ぼくらは群青を探している
 私も、この主人公と同じなのかもしれない。今まで兄に劣等感を抱いたことなんてなかった、なかったつもりだったけれど、もしかしたら『ああ、兄は私と違ってちゃんと正常なんだ』と心のどこかで劣等感に似た感情を抱いていたのかもしれない。だから私は、群青にいることを選んだのかもしれない。


「……さっき昴夜が言ったの、分かるような気がするな」

「だろ?」


 頷いたのは私ではなくて雲雀くんだった。映画の中では、クリスが、家庭環境が悪いせいで俺の言うことなんて信じてもらえないと泣いていた。

 そうだ、雲雀くんはきっとクリスと同じだ。医者一族だから将来は医者にと嘱望(しょくぼう)されている。家庭環境のせいで「どうせアイツも駄目なんだ」という目で見られているクリスと同じ、家族と家庭環境から作られた規格の中でしか見られることはない。

 映画の中では、クリス達に合わせて進学組でなく就職組になろうとする主人公を、クリスが叱っていた。


「【俺たちといると頭が腐っちまうぞ】」

「えー、やば、クリス恰好いいな」


 主人公の親友で、正義感があって、ガキ大将。顔つきのとおり、話す内容も理知的だ。


「テディのことも物理的に何回も助けてるもんね」

「正義感が強いとか、誰かを助けるってことに躊躇(ちゅうちょ)ないタイプだよな」

「性善説みたいな」

「まあ赤ん坊が井戸に落ちそうだったら、このクリスは間違いなく助けるだろうな」

「なんで井戸?」

「……桜井くん義務教育受けてる?」

「いまスンゲェ暴言吐かれた気がするんだけど」

「実際義務教育だろ」


 主人公とクリスの関係は、男子独特の悪ふざけのノリもあれば少年らしくない秘密を共有している部分もあって、その意味で特別な絆を感じさせる。どこか、桜井くんと雲雀くんの関係に似ていた。


「……二人ってなんで仲良くなったの?」

「なんだ急に」

「言ったじゃん、誕生日が一緒だって」

「もっと、なんかエピソード的なのがあるんじゃないのかなって」

「んー、忘れた」


 雲雀くんは無言だった。でもここまで仲の良い二人がそのエピソードを覚えていないわけがない。

 ただ、じゃあ陽菜と仲良くなった最大のきっかけを思い出せるかと言われると、どれが決定打だったのか考えるのは難しい。そんなものか、ととりあえずは納得した。

 最終的に、四人は死体を見つけ、それを不良グループに見つかるも退け、ただ死体を見つけたと喧伝することはなく、匿名で通報だけして町へ帰る。四人はそれぞれ帰路につき、主人公の語りでその将来が語られる。クリスと別れるのは一番最後で「【I'll see you.】」「【Not if I see you first.】」と挨拶する。主人公とクリスの絆を知るには今までのシーンでも充分だったのに、その悪態にも近い挨拶でそれが一層伝わってくる。きっとこれは少年同士でなければでない挨拶だ。そう思うとどこか羨ましかった。


「【クリスは彼らしくとても努力した。そして大学へ行き、弁護士になった】」

「【クリスは喧嘩を止めようとした。そして喉を刺され、即死した】」


 その思い出を振り返る主人公は小説家になっていて、パソコンへ打つ文字で話が締め括られる。


「【I never had any friends later on like the ones I had when I was twelve. Jesus, does anyone?】」


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