ぼくらは群青を探している
 主人公の息子たちが遊んでいる姿を最後にエンドロールが流れ始める。隣の桜井くんがぐーっと背伸びをした。


「終わったー。もっとつまんないかと思ってたけど意外とよかったかも」

「ガキのノリってアメリカもこっちも変わんねーのな」

「俺も猛勉強して弁護士なろっかな、クリスみたいに」

「死亡フラグじゃねーか」

「大丈夫、俺ならナイフに刺されるなんてヘマしないし」


 立ち上がった桜井くんは、ひょいひょいとそのまま消えていった。きっとトイレだ。後で私も借りよう。

 リビングには私と雲雀くんだけが取り残された。雲雀くんが座っている側の右肩には微妙な緊張が走る。夏休み前、雲雀くんがうちに来て、お茶葉の缶を取り出そうとしたときからそうだ。桜井くんと一緒にいるときには感じない、妙な緊張感が体に走る。


「……最後、主人公は小説家になったって設定だったね」


 口に出た声が硬いのが分かった。でも「ああ、でそこそこ成功してんだよな」と返事をする雲雀くんの声はいつもどおりだった。


「一軒家に住んでて妻と子供あり、だし」

「そうそう」だから私もできるだけいつも通りの声を出して「十年以上会ってなかったクリスのお陰で今の主人公があるっていうのが、それでそのクリスが死んでしまったことであの日の冒険を思い出すっていう、あの青春が……よかった、胸に来た」

「つかこれって三国面白かったの? 俺らは男子だから、十二歳の俺らってあんな感じだなってシンパシーあるけど」


 雲雀くんは口には出さなかったけれど、ことあるごとに出てきた下品なセリフとシーンのことに違いない。そして両隣の二人は、そういうシーンのたびに、私の隣で見ることに居心地の悪さを感じ、黙ってやり過ごそうとしていたに違いない。


「……まあ、少年同士の絆とか、そういうのは。メタ的に見て面白いっていうか、いいなあっていうのはある」

「メタ的とか言うな」雲雀くんは鼻で笑って「まあ、絆は分かるけど。クリスと主人公な」

「そう、親友って言ってるだけあって、四人の中でも特別な理解者って感じだった。キャンプのシーンで、二人だけで秘密を共有するところとか……ちょうど桜井くんと雲雀くんみたいかもしれない」


 雲雀くんは口をへの字にした。そうか? とでも聞こえてきそうだけど、もしかしたら照れ隠しなのかもしれない。


「……お茶冷えたな。沸かすか」

「あ、待って、手伝うから」


 話を切り上げてキッチンへ行こうとするから、やっぱり照れ隠しかもしれない。重いものを持たせるまいと慌ててキッチンまでついて行き、その手がヤカンに伸びるより早くそれを奪い取った。


「……三国ってなんで俺らと一緒にいんの?」

「……なに急に?」


 コンロの前でお湯を沸かしながら、妙なことを聞かれた。唐突過ぎて言外に出て行けと言われているのかとさえ思えるセリフだ。いや逆にそうは思えないかもしれないけど。


「……いや、俺らは二人まだ分からんでもない、けど、三国はなんで俺らとつるんでんだろうなと思って」

「なんでって言われても……」

「なんならお前、新庄に拉致られたとき、蛍さんに怒られたのに俺らとつるむのやめなかったろ。あれ謎だったんだよな」


 赤倉庫の前で、桜井くんと雲雀くんと縁を切れと言われたときの話だ。群青の仲間になる覚悟はあるか──そう聞かれたときの蛍さんの顔を、今でも覚えている。


「……謎かな」

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