ぼくらは群青を探している
「謎だろ。新庄に拉致られて……、怖かったろ」なんなら体まで触られて、という間は省略されたまま「俺らと縁切るほうが、合理的じゃねーの。縁切ったって新庄が狙うかもしれねーけど、三国(おまえ)になんかあれば俺らは動く。だったら俺らとつるむだけ損だ」


 二人と一緒にいるだけ損……。そんな考え方はしたことがなかった。二人と一緒にいることに損得(そんとく)勘定(かんじょう)なんてしたことがない。

 それどころか、損得勘定なんてしてしまったら、私が得をし続けているようにしか思えない。


「……なんで二人と一緒にいるのって言われたら、友達だから以外言えないんだけど」

「それを加味してもだろ。一昨日だって……」


 それ以上のことを、雲雀くんは口にしなかった。一昨日、私がどこまでどうされたのか知っているのは当事者以外は雲雀くんだけだ。むしろ、呆然として機能停止していた私よりも的確に状況を──全容を把握しているのかもしれない。

 そして雲雀くんは優しいから、もしかしたら私以上に私が感じた(おび)えを分かってくれるのかもしれない。そういう優しさは最初から知っていたし、考えてみたらそれが一緒にいる理由かとも思ったけど、きっとそうじゃない。

 頭には、ついさっき見た映画のワンシーンが浮かぶ。別れ(ぎわ)に悪態に近い挨拶を交わせるほど、特別な絆で結ばれた主人公とクリス……。


「……二人に憧れたのかもしれない」

「憧れ?」


 なんじゃそりゃ、と雲雀くんはさっきよりもっと変な顔をした。


「今まで深く考えたことはなかったんだけど……私って規定どおりに生きてるなあって二人を見てて思ったのかも」

「両親に言われたとおりにばあちゃんの家で暮らしてるって?」

「……というか、もっと根本の、私はおかしいのかもしれないってところかな」


 私は、私がおかしいなんて思ってないのに、両親は私がおかしいと言う。学校の先生の言うとおりに、クラスメイトの言うとおりに、私は“普通”から外れているんだと。私はおかしくないと意固地になっていたつもりだったけれど、私は、いつの間にかその言葉に呪われ、洗脳されていたのかもしれない。


「桜井くんと雲雀くんの、なんだろう、自由な感じ? 周りに何言われても自分は自分みたいなところに憧れちゃったのかも。私は周りにどう見られるかばっかり気にして考えて喋ってるから」


 入学式の日、先輩に挨拶に来いと言われたら「用事があるほうが来い」と(おく)せず言い返すところとか、迷わず返り討ちにするところとか、それでいて自分達の無礼だとは言わずに「災難」と称するところとか。いや、そんな枝葉(しよう)末節(まっせつ)なエピソードではなくて、そもそも金と銀に髪を染めてるなんて、私にとっては有り得ない発想なのに、それを平然とやってのけて「これが俺達のスタイルですけど何か?」みたいな顔をしているところとか。そのくせ二人はきっと自他共に認める一番の理解者だ。

 こんな思考は間違ってる、こんな選択は正常じゃない、そう考えてしまいがちな私にとって、二人の自信とそれからくる自由が(まぶ)しかったのかもしれない。それが私の手に入ることはなくても、二人の自信に犯された空気を吸いたかった。


「だから……二人の傍にいたら、そんなことはどうでもよくなるんじゃないかって……」


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