ぼくらは群青を探している
 ああ、きっとそうだ。答えながら、考えながら、腑に落ちた。私のことを“病気だ”なんて思っていない二人は、結局私のことを“病気だ”なんて思わないままだ。桜井くんも雲雀くんも「なに、病気? 見えねーけど。俺らが違うって言うんだから病気じゃねーだろ」と不遜(ふそん)な態度で蹴り飛ばしてくれる。桜井くんに至っては、現に「それって正常なんじゃん、なにが駄目なの?」なんて一蹴(いっしゅう)した。二人が私自身気付いていない呪いを足蹴(あしげ)にしてくれていたから、こんなにも二人の傍は居心地がいいのかもしれない。

 二人に犯された空気を吸えたら、その副作用に殺されることがあっても、それはそれでいい。きっと──さっきの映画の言葉を借りれば──そんな友達は二度とできないのだから。


「……映画を見る前にも話したけど、やっぱり私は桜井くんも雲雀くんも好きだし……新庄なんかが出てきただけで二人の傍を離れるなんて、そんな不条理、受け入れられないでしょ?」


 雲雀くんは無言だったし、お湯が沸く前のヤカンを見つめるだけで私を見もしなかった。それが納得なのか照れ隠しなのか、はたまた釈然としないことによるものなのか、今度は分からなかった。


「……んじゃ、傍にいられるように守ってやんねーとな」

「私も自分の身は自分で守れるように頑張る」


 ぐっと拳を握り締めたけれど、雲雀くんには白い目を向けられた。この目はどうせ私一人では非力でどうにもならないと思っているに違いない。実際力はないけど。


「……頑張れるよ?」

「……はいはい」


 あしらうような口調と横顔にポンポンと頭を()でられて、びっくりして頭を押さえてしまった。夏休み前、学校でのものを含めて二度目だ。私の気配に気づいたのだろう、雲雀くんはやっと顔を上げて「……ああ、悪い、なんか癖で」なんて珍しく(とぼ)けた顔をした。


「……妹にやってる?」

「……やってる。バカなこと言ったときとか」


 つまり……そういうことか。そうだとしてそんなバカなことを口走った覚えはない。頭を押さえたまま困惑していると、不意に雲雀くんは笑った。


「お前、本当に頭いいのに本当にバカだな」


 ……雲雀くんは、陽菜に習った「ツンデレ」という概念が当てはまる人なのかもしれない。顔に上ってきた熱を隠すために、頭を押さえていた手をゆるゆると口元まで下ろした。

 きっと二人みたいな友達ができることは二度とない。でも、さっき見た映画の主人公と違って、私は少年ではない。

 あの絆は、少年同士にしかないものだろうか。少女でも、その資格は失われないだろうか。

 私は、失わずにいられるのだろうか。

 不安に近いその直感を誤魔化すように、雲雀くんからそっと目を逸らした。
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