ぼくらは群青を探している
政之(まさゆき)兄貴は? 今年は来れないの?」と(まさ)(ひろ)叔父さんが口にすれば「お父さんは仕事忙しいって。お母さんはお父さん一人にできないから来ない。俺も実家寄らないでこっち直接来たし」とお兄ちゃんが肩を(すく)めた。


「てか京くん、海行こうよ。おばあちゃん家はさ、海あるのはいいんだけど一緒行く友達がいないんだよね」

「行く行く」

「京平、アンタ夕方には帰るって言ったでしょ」

「だいじょーぶ、五時までには帰ってくるから。英凜ちゃんも海行くでしょ?」

「……私、友達と一緒に行く約束あるから」

「え、お前友達いんの?」


 お兄ちゃんの口角から、からかっていることは明白だった。頭に桜井くんと雲雀くんのほか、群青の先輩達を思い浮かべながら「うーん、まあぼちぼち」と適当な返事をする。

 お兄ちゃんは、私が環境療養のためにおばあちゃんの家に住んでいるのを知っているくせに、そんな事実はないかのように、まるで私が気まぐれにおばあちゃんの家に住んでいるかのように扱う。全然構わないのだけど、お母さんの心配と全く真逆の反応をされると、頭ではちょっと複雑だ。

 そして、環境療養のことは、父方の親戚はみんな知っている。だから政広叔父さん達は少し気を使った素振りはみせる。とはいえ、その気遣いの一環なのか、叔父さん達からはっきりと口に出されることはない。


「え、ちょうどいいじゃん。英凜ちゃん、海行くならその時僕達も連れてってよ。そしたら迷わないでいいし」


 京くんは知っていて何事もないかのように振る舞うけれど、どちらかというと京くんの性格的には「環境療養とは聞いてるけどそれ以上分からないから知らない!」といった感じだ。


「迷う迷わないって、海の方向に行けば着くよ」

「念には念を」

「英凜、お前その友達の約束何時なの」

「十一時」

「え、じゃあもう出るじゃん」


 お兄ちゃんはアイスを食べながらリュックを漁って海パンを引っ張り出す。京くんはアイスの残りを口に放り込んで「僕も取ってくる、てか着替えてくる」とドタバタと客間へ行ってしまった。(まさ)(ひろ)叔父さんと優子(ゆうこ)叔母さんは顔を見合わせる。


「今日、薫子(かおるこ)さん達もいらっしゃるんじゃないの?」

「ああ、そろそろ着くんじゃないかなあ」

「だったら薫子(かおるこ)さん達に挨拶してからにしないと。ちょっと京平」


 もう一組の叔母夫婦のことを口にし、海パンとティシャツ姿で戻ってきた京くんを優子叔母さんは呼び止めた。京くんは「なに?」とキョトンとしている。


「もうすぐ薫子さん達が来るから、挨拶してから行きなさい」

「あー、そう。それはそうですね」京くんは畏まった口調で「それ駿(しゅん)くん来るの? だったら駿(しゅん)くんも連れて行こ」

「アンタそうやって駿くん連れて行けば海に行っていいと思って……」

「じゃあ私もう出るから先に……」

「えー、いいじゃん、ちょっと待ってて」


 ……雲雀くんに連絡を入れておこう。ポチポチと携帯電話で「ちょっと遅れそうなので、みんな集まったらどこらへんにいるか教えて」とメールを打つ。
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