ぼくらは群青を探している
 お兄ちゃんは気を取り直したけれど、京くんはまだ目を白黒させている。確かに、この京くんが灰桜高校に来たら死んでしまう。


「んじゃ……英凜が遊ぶって言ってた友達って先輩ら?」

「も、含む。のでご心配なく、お兄ちゃん達はお兄ちゃん達で、どうぞご自由に遊んでください」


 しっし、と手を振ってみせると、お兄ちゃんは「分かった分かった。じゃ僕はこれで」とさっさといなくなる仕草をとった。京くんは「えーっと……?」と困惑したまま、視線を駿くんに移す。


「……駿くんは? どうするの?」

「そういえばこのガキ誰? 三国ちゃんの弟?」


 九十三先輩はひょいと屈んで駿くんに目線を合わせた。途端、駿くんはたじろいだように一歩下がる。それもそうだ、いくら目線を合わせたって、小学一年生から見たら巨人に等しいに違いない。


「……いえ、従弟です。先輩達がよければ一緒に遊んでもらおうと思ってたんですけど」

「こんにちは。月影(つきかげ)駿(しゅん)()です」


 いつも淡々としている声が心なしか震えて聞こえた。やっぱり怖いに違いない。

 その巨人の先輩達は顔を見合わせて「いいよ、ガキの面倒なら見慣れてるし」「ちょうど(なぎさ)も来てますしね」「ああ、常盤(ときわ)か。いいんじゃね、アイツとお前で見れば」と意外にもあっさりと頷いてくれた。京くんは蛍さん達が怖くて仕方ないらしく「あー、そう、じゃあ僕は予定通り凜くんと泳いでくるので……」と爪先を反対方向へ向け、逃げるようにお兄ちゃんの後を追いかけて行った。


「……三国の兄貴には見えなかったな」


 二人がいなくなった後、蛍さんがボソリと呟いた。隣の九十三先輩も「いやー、マジで見えなかったね」とポッキンアイスを(くわ)えたまま頷く。


「金髪だし、下手したら俺らよりヤンキーに見えるよ」


 それはさすがにない。


「てか結構離れてる?」

「……先輩達の一個上です。今年大学生なんで」

「マージか。俺がイメージするパリピ大学生だけど、余計に三国ちゃんの兄貴とは思えねーな」

「そういう話全然聞かないから知らなかった。本当にごめんね、お兄さんに脅してごめんなさいって言っといて」


 脅してる自覚あったんだ……。確かに一八〇センチ近い能勢さんと九十三先輩が出てきたら、黙っててもそれだけで十分脅迫になる気はする。しかも九十三先輩は雲雀くんが言ってたとおり本当にガタイがいいのが海パン一枚だとよく分かった。なんちゃってフットサルサークルのお兄ちゃんなど目ではない。


「……気を取り直しまして、こんにちは……」

「いやー、マジでね。マジでこの二週間死にそうだったね。補習で」

「夏祭り行ってただろ、何言ってんだ」

「あれ夜だけじゃん! しかもさあ、結局深緋の連中が出てきてドンパチやってるうちに祭りも花火も終わるし! 俺の夏休みマジで今日が一日目だよ。こっから後期までやっと休める」


 嘆きながら九十三先輩は海岸に飛び降りた。それなりに高さもあるのに裸足(はだし)で飛び降りるし、そのまま「三国ちゃん無事だったー」と報告しながら他の先輩達のところへ行ってしまった。能勢さんもすぐに「ちゃんと勘違いだったって言わないとだめですよー」と笑いながら海岸に飛び降りていった。私と駿くんと蛍さんという、謎の三人組が歩道に残されることになった。


「……本当に、すいません。妹にたかる(おろ)かな兄で」

「たかられてたのか」

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