ぼくらは群青を探している
 びっくりして雲雀くんを見つめたけれど、雲雀くんはすぐには頷かなかった。代わりにメニューを手に取り「とりあえずドリンクバーとフライドポテトくらい頼むか」と呟き、ボタンを押す。ソーミー、と店内で音が響いた。


「……雲雀病院ってあるだろ。ひいじいさんの代からやってる」


 雲雀病院――おばあちゃんが通っている病院だ。脳裏には、巨大な白い病棟が浮かんだ。通りに面したところには「雲雀病院」と大きな看板が立っていて、いつもいくつもの車がひっきりなしに出入りしている。有体にいえば大病院だ。その正面玄関の光景は、まるで写真のように頭の中にある。

 ひいじいさんの代からやってる、というセリフに父親の代で途切れたかのようなニュアンスはない。ということは、おそらく代々開業医なのだろう。医者の家が金持ちだというのは安直な発想に思えたけれど、少なくとも曾祖父(そうそふ)の代から開業医をしている家はお金持ちだ。桜井くんのいう「ボンボン」はおそらく本当だ。


「……そうだったんだ。全然結びつけなかった」

「結びつけなかったって」雲雀くんは笑いながら「ま、こんなヤンキーだとそりゃそうだな」

「ヤンキーだからっていうか、なんか、そういう人ってもっと威張ってるイメージがあった」


 頭の中には、中学校の同級生が浮かんだ。それこそ、彼も家が開業医だった。その代わり、雲雀くんとは違って父親の代から始めたばかりだった気がする。彼は家が医者だという話をしょっちゅうしていたし、その証拠に全く付き合いのない私でさえ彼の家は医者だと知っているし、なんなら彼が医者を志すがゆえに県外の高校に進学したことも知っていた。

 家が医者だという話をするのはなぜか。文脈や状況が分からなければ、その「なぜ」は分からないけれど、付き合のない私でさえ知っているほどに頻繁にするとすれば、その理由は「自慢」だと容易に分かる。彼は「自慢げに」家が病院だという話をしていた。医者を志しているのだと豪語(ごうご)していた。いつもテストの点数を大声で話していた。その点数の良し悪しはその時々で違ったけれど、少なくとも東中で上位の範囲であることは確かだった。つまり、それもまた彼の「自慢」のひとつだった……。

 そんないくつもの情報を総合した結果、彼のことは「プライドが高いけれど、存外単純なので、分かりやすいお世辞でもわりと喜ぶ」と分類していた。それは「親が医者だ」と話す人にある程度使えそうな、いわゆる汎用性(はんようせい)の高い分類だと思っていた。


「でも雲雀くんがその病院の……開業したお医者さんのひ孫って話は初めて聞いたし、桜井くんが言い出したことだし、なんか……意外だなって」


 雲雀くんの情報は増えたけれど、分類するにはまだ足りない。

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