ぼくらは群青を探している
 雲雀くんは閉口した。閉口している理由は分からなかったけれど、少なくとも不機嫌そうには見えなかった。桜井くんは丸い目を一層丸くしていた。


「……ご注文をおうかがいします」


 ちょうど店員さんがきたお陰で、沈黙は断ち切られた。雲雀くんが閉口していたからか、桜井くんが「あー、えっと」と代わりに注文を請け負った。


「……三国、つーわけで、ケー番」

「あ、うん、番号言ってくれたらかけるよ」


 何かが気に(さわ)ったのか、はたまた変なことを言ってしまったのか。分からないまま、雲雀くんの電話番号を携帯電話に打ち込んだ。雲雀くんの携帯電話がチカチカと光ったことを確認して、お互いに番号を登録する。


「……三国の名前って、漢字どうだっけ」

「英語の英に、凛としてるの凛」

「サンキュ」


 雲雀くんの名前は、侑生(ゆうき)だ。入学式の日に見た座席表を頭の中に浮かべながら携帯電話の中に打ち込む。桜井くんは隣でテーブルに頬をつけながら「いいなー、いいなー」とぼやく。


「あ! じゃあ俺は家の電話番号にする! 教えるから入れて!」

「……いいけど、桜井くんは登録できないんじゃ」

「いつか登録するから!」

「……つか三国、俺の名前分かんの?」


 連絡先に登録するのに迷っている素振りがなかったから、だろう。さすがにその胡乱(うろん)げな表情くらいは読み取れた。


「うん。侑生でしょ、人偏(にんべん)に有ると生きるの」

「……なんで覚えてんだ」

「だって、座席表見たから。隣にいるって思ったから、覚えたんだよね」


 慌てて付け加えたけれど、雲雀くんは「ふーん……」と頬杖をついたまま少し不審げな返事をした。桜井くんは「すげー、記憶力いいなー」と拍手をしている。


「つかドリンクバー取りに行こ」

「俺、座っとくから、取ってきて。コーラ」

「んじゃ三国行こ」

「あ、うん……」


 ドリンクバーを取りに行きながらも、桜井くんは「じゃー三国、俺の名前も覚えてんの」「(すばる)に夜でしょ」「すげー、マジだ」と感動していた。やっぱ頭イイヤツって記憶力もすげーんだな、なんてこれまた安直な感想を口走る。


「つか、侑生の家が雲雀病院って話、内緒な」


 桜井くんは、おもむろにそんなことを言った。それにしては随分と軽々しく私にバラしたような気がするけど。


「アイツ、家が病院なの気にしてんだよ。ほら、俺みたいなバカと遊んでるし、あんな恰好してるから。だから、アイツの成績が良いのって、ほら、なんつーんだろう、反抗? 好き勝手してっけどお前らが欲しいとこはちゃんと締めてんぞ、みたいな」


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