ぼくらは群青を探している
 本来罰ゲームに近い荷物番が一瞬でご褒美タイムに変わる……もしかしたらみんなこぞって桜井くんと交代してくれるかもしれない。胡桃が先輩達とどのくらい話が(はず)むのかは別として、桜井くんも荷物番をするよりは遊びたいだろうし、それ自体はきっとウィンウィンだ。

 ただ一人異論を唱える九十三先輩を、駿くんが怪訝(けげん)な顔で見上げる。


「……つくみセンパイは隣に女子がいればいいのか」

「女子ならいいわけじゃないんだな。可愛い子がいいんだな」

「駿くんに変なこと教えないでください。駿くんお昼食べるよね?」

「食べる」


 五人で連れだって海の家が密集しているところへ行き、私と桜井くんと胡桃、九十三先輩と駿くんと雲雀くんがそれぞれ別々の海の家に別れて並んだ。


「英凜の従弟、ツクミン先輩に懐いてんな」

「駿くんは自分が食べたいメニューがあるほうに並んだだけ。私がいるからこっちに並ぼうとか、そういう発想は駿くんにない」

「へーっ、なんか英凜の従弟っぽい。我が道を行くみたいな」


 胡桃が私の言動をそう評するのは二回目だ。そんなにみんなと違う道を歩いているだろうか、はて、と首を傾げる。


「でもツクミン先輩に懐いてんのはそうなんじゃね、嫌いならさすがに一緒にいないだろうし」

「それはそうかも。九十三先輩、やっぱり年下得意なのかもね」


 そんな話をしながら並んでいる最中、焼きそば片手に歩いてくる人のシルエットに妙に見覚えがあると思ったらお兄ちゃんだった。私の視線で気付いたのか「おう」と声をかけてくる。


「結局お金どうしたの」

「京くんに借りた」

「うわ……」

「英凜の友達? お揃い」


 妹として冷ややかな目を向けるも、お兄ちゃんは意にも介さず、桜井くんに向かってピッと自分の金髪をつまんでみせて意味不明なセリフを口にし、そのまま行ってしまった。桜井くんはその後ろ姿を見つめながら、ピッと自分の前髪をつまんでみせる。


「……英凜の兄貴より似合ってるかな」

「本ッ当に似合わないよね。やめてほしい」

「ハーフの昴夜のほうが似合うのは仕方ないんじゃない」胡桃は笑って「てか英凜のお兄ちゃん? 年離れてるの?」と先輩と似たようなことを聞く。きっと年の近くなさそうな兄弟を見たときはその質問が定型文なのだろう。


「三つ上。いま大学一年目だよ」

「あれ、じゃああたしのとこと全く同じなんだ? あたしもお兄ちゃん大学一年生だから。いま早稲にいるけど、英凜のお兄ちゃんも東京?」

「ううん、お兄ちゃんは京都」

「京都のどこ?」

「帝都大学」

「え、マジ」胡桃は素早くお兄ちゃんが立ち去った方向を見て「……み、見え……見えない……!」

「なに、どういうこと?」

「だってあれ帝大生には見えないじゃん! 英凜のお兄ちゃんだって言われなかったら絶対DQNだと思ってた!」


 ドキュン……? 知らない単語だった。でも文脈的に悪口というか、少なくとも褒められていないのは分かる。


「なんで? 帝大ってそんなすごいの?」

「……昴夜本ッ当になんにも知らないよね。すごいよ。ちなみにあたしの志望校ですーう」

「え、一年なのに志望校ってあんの。てか志望校ってとりあえず東大書いてFもらって、あと女子大書いて何くれるのかなってわくわくするヤツだよね」

「それ絶対に桜井くんとか荒神くんだけの遊びルールだよ。雲雀くんとかはきっとちゃんと書いてるよ」


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