ぼくらは群青を探している
しかも問題はそこではない。なお「ちなみに女子大書いたけどFだった、俺が男だからなのか普通に点数足りないのか分かんなかった」とのことなので本当に無駄な遊びだ。
「英凜のお兄ちゃんって灰桜高校だった?」
「ううん、違うけど」
「そうだよねー、去年の進学実績に帝大なかったし、お兄ちゃんがずっと一番だったって聞いてたし……」
そもそも別々に住んでいるという話は、する必要がなさそうなのでそのまま黙っておいた。
「……胡桃のお兄さんは絶対イケメンだよね」
「うふ、そう思うでしょ。そうなの」
自信満々の答えからはその仲の良さまで伝わってきた。私も、そうはいっても憎まれ口を叩ける程度には仲が良いとは思っているけれど……。
「英凜の兄貴もイケメンだと思うけどな。あの金髪やめれば」
「イケメンだと思わないし、似合わないのにあの金髪を選択するところがやっぱり元来イケメンの資格がないんだと思う」
「めちゃくちゃ兄貴に厳しいな」
各自目当てものを買った後、九十三先輩達と合流し、桜井くんが「さっき英凜の兄貴に会った」なんて報告をするので「ああ、あのカツアゲのおにーさんね」「カツアゲ?」なんて当初の誤解が明るみになった。胡桃は「やっぱり見た目で損してるよ」とケラケラ笑ったし、雲雀くんは「そんな似てねーの」と人混みの中にお兄ちゃんを探すような素振りをみせた。
「てかツクミン先輩に脅された英凜の兄貴、不運すぎだろ」
「俺、そんな怖いかなあ」
「俺らは知ってるから思いませんけど、九十三先輩達が歩いてると商工の連中すら目合わせようとしないじゃないですか」
灰桜高校から少し離れたところにある一色商業工業高校のことだ。灰桜高校の普通科が「掃き溜め」とただ不優秀であるかのように言われるのに対し、商業工業高校は「ガラが悪い」とストレートに治安の悪さを指摘される。その商工の生徒が目を合わせようとさえしないということはよっぽど怖い、という意味になる。
九十三先輩も能勢さんも、顔つきは優しいのに、何も知らない人からしたら「群青の怖い人ツートップ」に見えるのだろうか。……見えそうだ。一瞬考えたけれどすぐに納得してしまった。ただ「あー、商工のいまの三年はね、前に大喧嘩したことあるから」ということなので、外見以上の情報があるらしい。
「大喧嘩……って、何でですか?」
「そん時の群青のトップの彼女に手出したんだよ。だから群青のトップもブチギレちゃってさあ。商工には群青みたいなチームないじゃん? そん時に潰して、そのまま二度と作んなってことになったんだよね。俺とか永人とか、前線に駆り出されたから顔覚えられてんの」
群青と仲が悪いという深緋さえ存在を許されているというのに、それを許されないほどの大喧嘩が勃発したのか……なんて頭で考えていると、九十三先輩は自分の背中を見ながら「ほらこれ、そんときの傷」と腰のあたりにある、うっすらと膨れた、ほんの一センチくらいの傷痕を指差した。
「アイツらマジで頭おかしいからさ、刃物とか普通に使ってくんだよね」
「……え?」
「あ、でも度胸ないんだよね。とりあえず刃物持つやつっているじゃん、それに刺されただけ。ちょっとあちーなと思ったら怪我してたみたいな感じだったから、大したことないんだけど、刺さったとこだけ傷になっちった」
「英凜のお兄ちゃんって灰桜高校だった?」
「ううん、違うけど」
「そうだよねー、去年の進学実績に帝大なかったし、お兄ちゃんがずっと一番だったって聞いてたし……」
そもそも別々に住んでいるという話は、する必要がなさそうなのでそのまま黙っておいた。
「……胡桃のお兄さんは絶対イケメンだよね」
「うふ、そう思うでしょ。そうなの」
自信満々の答えからはその仲の良さまで伝わってきた。私も、そうはいっても憎まれ口を叩ける程度には仲が良いとは思っているけれど……。
「英凜の兄貴もイケメンだと思うけどな。あの金髪やめれば」
「イケメンだと思わないし、似合わないのにあの金髪を選択するところがやっぱり元来イケメンの資格がないんだと思う」
「めちゃくちゃ兄貴に厳しいな」
各自目当てものを買った後、九十三先輩達と合流し、桜井くんが「さっき英凜の兄貴に会った」なんて報告をするので「ああ、あのカツアゲのおにーさんね」「カツアゲ?」なんて当初の誤解が明るみになった。胡桃は「やっぱり見た目で損してるよ」とケラケラ笑ったし、雲雀くんは「そんな似てねーの」と人混みの中にお兄ちゃんを探すような素振りをみせた。
「てかツクミン先輩に脅された英凜の兄貴、不運すぎだろ」
「俺、そんな怖いかなあ」
「俺らは知ってるから思いませんけど、九十三先輩達が歩いてると商工の連中すら目合わせようとしないじゃないですか」
灰桜高校から少し離れたところにある一色商業工業高校のことだ。灰桜高校の普通科が「掃き溜め」とただ不優秀であるかのように言われるのに対し、商業工業高校は「ガラが悪い」とストレートに治安の悪さを指摘される。その商工の生徒が目を合わせようとさえしないということはよっぽど怖い、という意味になる。
九十三先輩も能勢さんも、顔つきは優しいのに、何も知らない人からしたら「群青の怖い人ツートップ」に見えるのだろうか。……見えそうだ。一瞬考えたけれどすぐに納得してしまった。ただ「あー、商工のいまの三年はね、前に大喧嘩したことあるから」ということなので、外見以上の情報があるらしい。
「大喧嘩……って、何でですか?」
「そん時の群青のトップの彼女に手出したんだよ。だから群青のトップもブチギレちゃってさあ。商工には群青みたいなチームないじゃん? そん時に潰して、そのまま二度と作んなってことになったんだよね。俺とか永人とか、前線に駆り出されたから顔覚えられてんの」
群青と仲が悪いという深緋さえ存在を許されているというのに、それを許されないほどの大喧嘩が勃発したのか……なんて頭で考えていると、九十三先輩は自分の背中を見ながら「ほらこれ、そんときの傷」と腰のあたりにある、うっすらと膨れた、ほんの一センチくらいの傷痕を指差した。
「アイツらマジで頭おかしいからさ、刃物とか普通に使ってくんだよね」
「……え?」
「あ、でも度胸ないんだよね。とりあえず刃物持つやつっているじゃん、それに刺されただけ。ちょっとあちーなと思ったら怪我してたみたいな感じだったから、大したことないんだけど、刺さったとこだけ傷になっちった」