ぼくらは群青を探している
 当然納得できるだろうみたいな口調だったけど何も納得できなかった。お兄ちゃん達はいまの灰桜高校を世紀末だと言ったけれど、間違いなくその時代のほうが世紀末だ。お陰でぶるっと背筋を震わせた。この人達と同い年じゃなくて本当によかった。

 荷物があるところに戻って、互いに手の中にあるご飯を食べ終え、暫く休憩してから「んじゃバレーやるかあ」と九十三先輩は立ち上がった。桜井くんは荷物番なので「いってらっしゃあ」と座ったまま手を振る。


「三国ちゃんもバレーやる?」

「さすがにちょっと疲れたので、私は見学で」

「なんだ残念」


 そんな言い訳をしたけれど、正直なところ、先輩達のバレーに混ざる勇気がなかっただけだった。現に私と駿くんの目の前ではボールが砂の飛沫(しぶき)でも作りそうな勢いで砂浜に叩きつけられていた。あんなものを腕で受けたら折れてしまう。

 ただ私達が暇そうだと気を遣われたのか、それとも私が見ていないうちに駿くんが先輩達に馴染んでしまったのか、砂浜に横たわった駿くんが埋められるという遊びまで行われた。しかも埋められた駿くんの体の上にどこからか捕まえてきたイソガニを乗せ始めたせいで駿くんが本気で(おび)えた。本当に先輩達の遊びには理解できないことしかない。

 私と雲雀くんが「そろそろ桜井と変わってきな」と蛍さんに命じられたのは三時過ぎだった。「さすがにもう帰る時間なんじゃないのかな」「俺の荷物番が終わるタイミングで帰るみたいなことは言ってた」と話しながら、砂まみれの駿くんの体から海で泥を落としてパラソルのもとへ戻ると、桜井くんはデッキチェアに寝転んだままスヤスヤと寝息を立てていた。なんならティシャツを布団代わりにしている。


「……コイツマジか」

「ね。すぐ寝るよね。ちっちゃい子みたい」

「いつから寝てたの?」

「荷物番始めてすぐ。でも昴夜がいるだけでナンパとか来ないから超便利」


 そっか、やっぱり胡桃一人だとナンパされて大変なのか……。そんなことを思っている私の横で「おい起きろ」と雲雀くんが椅子を蹴っている。ガタガタッと揺れた椅子の上で、桜井くんは「んー……よく寝た」と呑気な目の覚まし方をした。


「なに、交代?」

「交代つかお前寝てただけじゃねーか」

「胡桃いるからいいかなって」

「これあたしがいなかったらどうしてたの?」

「英凜が代わりに見張ってた」

「そういう話じゃなくない?」

「俺、別にこのまま荷物番でもいいよ」桜井くんは欠伸(あくび)をしながら「なんか疲れたし。結構よく遊んだ」

「でもあたし一人じゃ群青の先輩達のとこ戻りにくいし。ね!」


 胡桃は、寝転んだままの桜井くんの腕を両腕で引っ張った。その様子に視線が行ってしまったのはなぜだったろう。ともかく、桜井くんはいかにも寝起き、といった感じの眠そうな顔のまま体を起こした。


「別に胡桃一人でも歓迎されんじゃね」

「そういうことじゃないんだってば」

「てか先輩らマジでずっと動いてるけど疲れねーのかな」

「昨日まで夏課外だったんだろ? んで月曜また模試つってたから、今のうちに遊んでんじゃね」

「あーね」

「昴夜、早く早く!」


 何をそんなに急いでいるのか、胡桃に急かされるがままに桜井くんは「んじゃ侑生よろしく」と先輩達のもとへ足を向ける。でも途中で胡桃が桜井くんの腕を掴んで方向転換を(うなが)していた。遠くの海岸を指差して何か話して、桜井くんが何かを答える横顔だけが見える。

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