ぼくらは群青を探している
……今の今まで気が付かなかったけれど、駿くんと雲雀くんは最悪の取り合わせだった。頑張れば予想はできたかもしれない、しれないけれど、さすがにそこまで頭は回らなかったし、きっと防ぎようはなかっただろう。そんな事態に戦慄してしまった。
「お父さんが嫌いなのか」
しかも、駿くんがしごく純粋にそう訊ねることが事態の悪さを加速させる。
「お前、父親好きなの」
「好きだし、尊敬している」
「どこらへんを」
「医者で、いろんなカンジャさんの命を助けている」
ピシャッ――と落雷の衝撃が全身に走るようだった。
だから、最悪の取り合わせなんだ。真哉お兄さんは医者で、雲雀くんのお父さんもそうで、駿くんがこの場でどこまで口走ってしまうかは分からないけどその将来の夢は医者で、その理由は当然のように敬愛する真哉お兄さんで、雲雀くんは――。
「……あ、そ」
ドクリドクリと動悸がし始めていた。この先何が起こるのか、どんな会話の応酬がなされるのか、全く見当はつかないけれど、少なくとも所せましと地雷が埋められていることだけはよく分かる。
「ひばりセンパイはなんでお父さんが嫌いなんだ」
そして駿くんがその地雷の存在に気付くタイプでないことも、まるで幼い頃の自分を顧みるかのように、よく分かっていた。
「看護師と不倫してたから」
「フリン……」
「しゅ、んくん」焦って出した声が掠れていて「常磐先輩のところ行こっか、もう一回投げてもらったら」
もう駿くんをあっちへやる以外、方法はない。
とはいえ、あまりにも脈絡のない提案に、駿くんの胡乱な目が私を見た。そんなことがしたいなんて一言も言ってない、たださすがに突然そんなことを言われたら察するものはある。しかしその内容までは判然としないので私に回答を求めたい、きっとそんなところだ。
「……行く」
ただ、私が回答を教える気がないのも分かったのだろう、すくっと立ち上がり、いそいそと帽子をかぶり「一人で行ける」と私が立ちあがるのも待たずに先輩達のほうへ行ってしまった。
地雷を踏みまくられることがなくなったこと以外に状況はひとつも好転していなかった。雲雀くんの隣で完全に思考はストップしてしまい、一体何を口にだせばいいのかさっぱり分からない。いうなれば思考が五里霧中。それどころか、身動きひとつさえ許されないような気がした。空気が痛いという表現を理解できたことはなかったけれど、もしかしたらこの状況こそがそれなのかもしれない。
ただ、先に物理的に動いたのは雲雀くんだった。額に手を当てて、手はそのままに、俯き、海水で張りついた銀髪を撫でるように手を頭の後ろへと流した。
「……ごめん」
「え、いや、えっと、雲雀くんが謝ることはなにも……」
「どう考えても俺が悪いだろ。三国の従弟、謝っといて」
雲雀くんは腕を伸ばし、膝に額を乗せ、表情を私に見せないまま、はー、と深い溜息を吐いた。
「お父さんが嫌いなのか」
しかも、駿くんがしごく純粋にそう訊ねることが事態の悪さを加速させる。
「お前、父親好きなの」
「好きだし、尊敬している」
「どこらへんを」
「医者で、いろんなカンジャさんの命を助けている」
ピシャッ――と落雷の衝撃が全身に走るようだった。
だから、最悪の取り合わせなんだ。真哉お兄さんは医者で、雲雀くんのお父さんもそうで、駿くんがこの場でどこまで口走ってしまうかは分からないけどその将来の夢は医者で、その理由は当然のように敬愛する真哉お兄さんで、雲雀くんは――。
「……あ、そ」
ドクリドクリと動悸がし始めていた。この先何が起こるのか、どんな会話の応酬がなされるのか、全く見当はつかないけれど、少なくとも所せましと地雷が埋められていることだけはよく分かる。
「ひばりセンパイはなんでお父さんが嫌いなんだ」
そして駿くんがその地雷の存在に気付くタイプでないことも、まるで幼い頃の自分を顧みるかのように、よく分かっていた。
「看護師と不倫してたから」
「フリン……」
「しゅ、んくん」焦って出した声が掠れていて「常磐先輩のところ行こっか、もう一回投げてもらったら」
もう駿くんをあっちへやる以外、方法はない。
とはいえ、あまりにも脈絡のない提案に、駿くんの胡乱な目が私を見た。そんなことがしたいなんて一言も言ってない、たださすがに突然そんなことを言われたら察するものはある。しかしその内容までは判然としないので私に回答を求めたい、きっとそんなところだ。
「……行く」
ただ、私が回答を教える気がないのも分かったのだろう、すくっと立ち上がり、いそいそと帽子をかぶり「一人で行ける」と私が立ちあがるのも待たずに先輩達のほうへ行ってしまった。
地雷を踏みまくられることがなくなったこと以外に状況はひとつも好転していなかった。雲雀くんの隣で完全に思考はストップしてしまい、一体何を口にだせばいいのかさっぱり分からない。いうなれば思考が五里霧中。それどころか、身動きひとつさえ許されないような気がした。空気が痛いという表現を理解できたことはなかったけれど、もしかしたらこの状況こそがそれなのかもしれない。
ただ、先に物理的に動いたのは雲雀くんだった。額に手を当てて、手はそのままに、俯き、海水で張りついた銀髪を撫でるように手を頭の後ろへと流した。
「……ごめん」
「え、いや、えっと、雲雀くんが謝ることはなにも……」
「どう考えても俺が悪いだろ。三国の従弟、謝っといて」
雲雀くんは腕を伸ばし、膝に額を乗せ、表情を私に見せないまま、はー、と深い溜息を吐いた。