ぼくらは群青を探している
 雲雀くんの駿くんに対する言動は、予想外ではあった。だって胡桃にさえ、名指しされたわけではないとはいえ「両親が揃ってるのが完璧の一要素」かのように語られても、それで嫌悪感を抱いていても、それを悟らせまいと感情を(おさ)えている。それができるのに、初めて会った友達の従弟に、しかも自分よりずっと年下の何も分からない子に向かってそんなことを言うのは、雲雀くんらしくなかった。


「……本当に。俺が大人げなかったから」

「でも悪いとかじゃ……」

「両親仲良くやってる小学一年生に言うことじゃねーだろ。……そうじゃなくても、今日会った従姉の友達の親が不倫して離婚してるとかマジで知ったことじゃねーし」

「……でも、ほら、私は知ってたわけだし……」

「そこまで気ィ使えるかよ。つか俺だって基本どうでもいい、もう三年前だし、慣れたし」どこか乱暴な口調で吐き捨てるようにこの間と同じことを繰り返して「……ガキだよなあ」私が聞き取れるか聞き取れないかくらいの小さな声で呟き、はーあ、ともう一度深い息を零した。


「小学生に八つ当たりしてどうすんだよって話だな。(なさ)けねえ」

「そんなことは……私達だって、小学生に比べれば年上だけど、まだ高校生だし、そんなの仕方ないと……」


 自分が大人びていると感じたことはただの一度もない。それはもしかしたら高校生という肩書に規定されているせいかもしれないけれど、それを捨象(しゃしょう)できたところで大人だなんて思えないし、一方で自分が子供だなと感じることだけはある。それは例えば、雲雀くんのように、感情で突っ走った後で冷静になって、自分の言動を(かえり)みたときとか。

 でもまだ子供なんだから仕方がない。駿くんのほうがずっと子供だけれど、私達だって子供なんだから仕方がない。立場が逆ならそんな(なぐさ)めを受け入れる気にはならないけど、立場は逆ではない。


「そもそも、雲雀くんはどっちかと言わずとも感情抑えてるほうだし、同級生よりずっと大人だと思うし……そう、言われるでしょ?」

「……ぶってるだけだよ。小学一年生に当たり散らすくらいには持ってる感情はガキ」

「別に、子供も大人も、抱く感情の種類に変わりはないでしょ? 感情を抑えて表に出さないことが大人になるってことなんだと私は思ってるから……」


 雲雀くんは膝に額を乗せて(うつむ)いたままだった。手持(てもち)無沙汰(ぶさた)に、銀髪をくるくると指に巻いてほどいてまた巻いてを繰り返している。


「……三国はいつもそうやって、自分だけ先に大人になってるみたいな喋り方するよな」

「え、そうなのかな……ごめん偉そうで……」

「……そういう意味じゃない。お前はいつも大人だなって言いたかっただけだよ」


 ぐしゃぐしゃっとその銀髪は乱暴にかきまぜられた。顔を上げた雲雀くんは、そのまま、ふー、と眉間に皺を寄せて溜息を吐く。きっともう一度何か話そうとしたのだろうけど、ボンッと知らない人のビーチボールが飛んできたので話は途切れた。

 その知らない人は「すみませーん……」と走ってきて、 (おそらく雲雀くんの銀髪に)ゲッと顔をひきつらせながら雲雀くんの投げたボールを受け取り「あ、ありがとうございました!」と素早く頭を下げると、何もしていないのに脱兎(だっと)のごとく走り去った。


「……雲雀くん、見た目で損してるよ」

「そうか?」

「普通に優しいのに、見た目が不良みたいだから……」


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