ぼくらは群青を探している
 いや、みたいというか不良か。首を傾げながら、それよりも、話題を変える契機(けいき)を得たことに胸を()で下ろす自分がいた。雲雀くんもあえて蒸し返そうとはせず「まあ銀髪は怖いかもな」と(うそぶ)く。


「なんで銀色なの?」

「……なんか金髪だとありがちでイヤじゃね」

「ありがちだとイヤかな」

「人間誰だって自分を特別だって思いたいもんだろ、って言おうとしたけど、三国はそういうことなさそうだな」

「……それはそんなことないよ」思わず笑ってしまいながら「……普通だって信じたいけど、それと平凡は別かな……。というか、異常で凡庸(ぼんよう)なんてただの狂人(きょうじん)だし……」

「異常で非凡なら天才だからな」

「異常を否定してよ」

「そんなことする必要ないだろ」


 冗談を言えた自分にびっくりしてしまったし、雲雀くんの軽さにもびっくりした。

 でもそうだ。桜井くんが(とぼ)けてみせたように、私のそれは最初からその程度に軽視してよかったものなのかもしれない。


「あー、てかヤバいな、首焼けた気配する」

「……本当だ、赤くなってる。でも色黒の雲雀くんって想像つかない……」

「まあ、赤くなるけど、すぐ白く戻る」

「やっぱり。いいなあ」

「いいか?」

「だって──」


 だって、色白の女の子のほうが可愛いでしょ。

 そう口にしようとして、(つぐ)んだ。雲雀くんが怪訝(けげん)な顔をしていることに気付いて「……ほら、黒くなると、皮がむけて面倒だから」と続きを変更する。面倒だと感じるのは本当だった。


「ああ、まあ、そういうのはあるな。三国らしい着眼点」


 そうだ、その着眼点なら、私らしい。

 でも色白のほうが可愛いから色白がいい、なんて私らしくない着眼点だった。美容院へ行っても「適当に短くしてください」以外に言わないくらい、自分でも容姿に興味はないと思っているのだけれど、そんな自分がそんなところに目を付けたのは……、なぜ、だろう。


「俺は面倒でもいいから黒くなりたかったけどな」

「なんで?」

「……色白だと女みたいだろ」

「そんなことないでしょ」


 たとえばそれは雲雀くんが自分の顔を女っぽいと気にするのと同じ……、だろうか? 雲雀くんが女顔を気にするのは、男らしくありたいと思うからだろうか? それと同じだとしたら、女らしくありたいという私の感情は、一体どこから湧き出てきたのだろう……。


「てか先輩らマジでいつまで遊んでんの」

「体力有り余ってるのかな……」

「体育祭も群青のメンツがどんだけ集まってるかで勝敗決まるらしいしな」

「……確かに、喧嘩に強いと騎馬戦に強い、とか」

「それもあるし、普通に運動神経とガタイいい人多いしな。ろくにアップもしねー、部活もやってねーのにあんだけスパイク打ってんの、おかしいから」


 答えを見つけられないまま、話は段々と()れていった。お陰で、その違和感は形にならないまま、ゆっくりと不純物のように沈んでいった。

 四時を過ぎる頃、先輩達は「疲れたー」「撤収撤収」とパラソルの下に戻ってきて片付けを始めた。その中に桜井くんと胡桃の姿はなかった。


「……桜井くん達、どこ行ったんだろ」

「桜井くんなら散歩道行ってたよ」答えてくれたのは能勢さんで「そろそろ戻ってくる頃だと思うけど」


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