ぼくらは群青を探している

「だって近くにて便利なんだもん」

「てかだったら彼氏作って来年行けば? てか岩にめちゃくちゃ色んなカップルの名前彫ってあってマジホラーだった! あれ夜行ったら心霊スポットだと思う」

「昴夜って本当に夢がないよね。本当にそういうところ直したほうがいいと思う」

「だからあ、だったら俺を付き合わせなくてもいいじゃん!」

「よーしそこ、痴話(ちわ)喧嘩やめて帰る準備しろ」


 ぱんぱん、と蛍さんが手を叩き、先輩達は例によって階段を使わずに身軽に歩道へとのぼっていく。駿くんのことは「ほら肩乗りな」と常磐(ときわ)先輩が肩車をし、九十三先輩が歩道から引っ張り上げていた。


「三国、どうやって来た? チャリ以外なら俺と芳喜で送る」


 ……よりによって蛍さんと能勢さんに送ってもらう気にはならない。ふるふると首を横に振りながら「多分、兄ともう一人の従弟も一緒なんで大丈夫です」と言い訳した。


「ああ、そんならいいか。気つけろよ」

「……はい」


 実際、お兄ちゃん達も今から帰るのか、携帯電話を見れば、つい二分前に「帰った?」とメールが来ていた。きっとこれから帰るのだろう、嘘から出た真というヤツだ。「今から帰る。最初カツアゲって思われた辺りにいる」と素早く返信してから、一足先に歩道にあがった駿くんを「お兄ちゃん達、こっち来るって。ここで先輩達とお別れ」と九十三先輩の足元から引き取った。駿くんはキャップを外して頭を下げる。


「遊んでもらってありがとうございました」

「おい桜井ィ、お前コイツ見習え」


 その頭を()でながら常磐先輩が叫んだけれど、石階段を上っていた桜井くんは「え、なにが? 俺の可愛さも負けてなくない?」とすっとぼけるだけだ。代わりに駿くんの頭を「来年は俺が投げてやるからな!」と撫でた。

 その駿くんが見上げる先に、桜井くんと入れ替わるように雲雀くんが立った。その図に緊張したのは、私だけだったろうか。それとも雲雀くんと駿くんも緊張しただろうか。

 分からないまま、ただ雲雀くんが駿くんの頭を撫でた。


「来年、また来いよ」


 ホッとしたのは、私だけではない。こくりこくりと駿くんが何度か頷いたのを見ればそれは分かった。

 そんなことをしているうちに「あれ、三国ちゃんの兄貴じゃね」先輩の一人が歩いてくるお兄ちゃん達を見つけ「やべー、三国にヤンキーが絡んでると勘違いされる」「間違ってねーだろ」「確かに」「じゃーね、三国ちゃん」と行ってしまった。お兄ちゃん達にはすれ違いざま「どーもー」「お宅の三国ちゃんのお世話してます」「いやされてる側じゃね」と笑いながら絡んでいた。あの兄の妹としてもあの先輩達の後輩としてもなんだか複雑な気持ちになった。

 それを眺める私の隣で、不意に桜井くんが「てか英凜、海は大丈夫なの?」なんて口にする。


「大丈夫って?」

「んーと、あれ。写真」


 ショッピングモールだと頭痛がするというのは海にも当てはまるのではないか、という話だろう。でも“写真”なんて言われただけでは、知っている人以外、意味は分かりっこない。実際、そのキーワードに胡桃はこてんと首を傾げた。それが桜井くんの気遣いなのは明白で、それなのになにかの暗号のように聞こえて笑ってしまった。


「うん、景色は大丈夫」

「そ? よかったよかった」

「なに、英凜、写真撮りたかったの? 夏休み明けたら現像したのあげるね」

「ありがと」


 本当に暗号みたいだ。まるで私と桜井くんで秘密を共有できたように。

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