ぼくらは群青を探している
 でもこの秘密は雲雀くんも知ってるものだ。そう考えると、これは私達三人の秘密──特別というべきかもしれない。

 そんな話をしているうちにお兄ちゃんと京くんが来てしまって「昼飯のときの友達か」「おにーさんどーもー。じゃあねー、英凜」「じゃあな」と軽く挨拶をして行ってしまった。京くんはさっきすれ違った先輩達のせいもあってやはり(おび)えていた。


「……英凜ちゃんって灰桜高校でなにしてんの? さっきの怖い人達もみんな三国三国言うし」

「……でも駿くんも気に入られてたくさん遊ばれてたよ」

「楽しかった」

「駿くんはほら、なんでも吸収する年だしさあ……」

「てか英凜、友達多くね」

「八割以上先輩だよ」

「同じじゃね」


 同じ、だろうか。はて、とお兄ちゃんの指摘に首を捻る。同じ……、同じだろうか。

 おばあちゃんの家に帰ると、京くんは「アンタ、もう帰るんだからそのまま車乗りなさい。後ろにバスタオル敷いて」と言われ、薫子お姉さんが「駿哉、海入ったの!?」「英凜ちゃんの先輩に遊んでもらった」と駿くんの濡れた服に仰天(ぎょうてん)していた。


「いや英凜の先輩、マジでやべーよ。世紀末のヤンキー集めましたって感じだった」

「別に悪いのは見た目だけだし……」

「見た目が悪いのは否定しないんだ。……否定できないよね、うん」


 ドン引きしている叔母さん達と白い目の京くんの隣で、おばあちゃんが「うちにも遊びに来るよ、雲雀くんと桜井くん。この間はお夕飯も食べて行って、桜井くんが料理上手でねえ」と余計なことを口走る。でも駿くんが「海に投げてもらった」「カニを取った」「フリスビーもした」と楽しそうに報告していたので、きっとお母さんに変な伝わり方はしないだろう。

 その駿くんと一緒に、夕飯前にお風呂に入りながら「そういえば、雲雀くんが駿くんに謝っといてだって」と雲雀くんからの伝言を口にした。駿くんは全く身に覚えがなさそうにきょとんと目を丸くする。


「謝るとは」

「ごめんねって。八つ当たりしちゃったからって」

「それならもう言われた」

「そうなの?」

「荷物を片付けてるときに、(うらや)ましかったから意地悪(いじわる)を言った、悪かったと」


 羨ましい……。そうか、雲雀くんは羨ましかったのか……。両親の仲が良いから、父親を純粋に尊敬しているから、名前に一字貰っていることが誇らしいから。

 ……雲雀くんは、本当はお父さんを尊敬したいのだろうか。


「だからそれはもう終わった話だ。英凜ちゃん伝いとはいえ二回も謝られる必要はない」

「……そう。それなら雲雀くんにもそう言っとくよ」

「来年来たらまた遊んでくれると言っていた」

「そうだね」珍しく舌足らずで小学一年生らしい喋り方をする駿くんに相槌(あいづち)を打ちながら「でも九十三先輩達は来年は卒業してるのか……」

「……じゃあ来週来る」

「来週はお父さんの実家に帰るでしょ」

「……再来週」

「お盆過ぎるとイラが出るよ」

「イラ?」

「ちっちゃいクラゲのこと。お盆過ぎてから海に入ったら刺されるよ」


 うーむ、と駿くんは考え込んだ。そうなるともう今年の夏は海に入れそうにない、でも来年になると遊んでくれた先輩がいない、なんて悩んでいるのだろう。そもそも、駿くんの家は横浜なのだから、ひょいと来れるような距離ではないのに。


「でも、先輩達も卒業してから帰ってくるかもしれないから。その時に呼ぶね」

「そうしてくれ」


< 342 / 522 >

この作品をシェア

pagetop