ぼくらは群青を探している

(2)暴走

 夏休み明け初日の教室に行くと、桜井くんと雲雀くんはまだ来ていなくて、代わりに胡桃がいて「あ、英凜、ちょうどよかった! 海のときの写真持ってきたの!」と桜井くんの机の上に写真を広げていた。その隣にカバンを置きながら「ああ、あの……」と一ヶ月近く前のことを記憶から掘り起こす。


「厳選したから安心して。英凜がうつってるのはこれとー、これとー……」


 どうやら私が見ていないところでも胡桃はたくさん写真を撮っていたらしい。最初に胡桃とうつっているツーショット以外にも、一瞥(いちべつ)しただけで、私が海に投げられる間抜けな図から、雲雀くんが足でバレーボールを取る野性的な図まであることが分かった。

 そして私が胡桃とうつっているツーショットは、私がこの手に持つとただの自虐だ。なにが楽しくて美少女と同じコマに切り取られなければならないのか。でもさすがの私も要らないとは言えない。


「……ありがとう」

「あ、能勢さんの写真要る? なんか英凜が能勢さんのこと気になってるみたいなこと聞いたから」


 誤解……。気になっていると言っても意味が違う。しかもその誤解は私が能勢さんの顔に見惚(みと)れていると勘違いしまくりな九十三先輩のせいに違いない。

 差し出されたのは能勢さんと九十三先輩のツーショットで、肩を組まれた能勢さんが苦笑していた。こう見ると本当に九十三先輩のガタイがいい。というか、上裸の先輩達の写真なんて、正直持つのが恥ずかしいような……。


「え、え、ちょっと待って、能勢さんの上半身? え? あたしこれ欲しい」


 聞きつけた陽菜が興奮気味にしゃしゃり出た。胡桃が「いいよー、持ってきた分は全部あげるつもりできたし」と快諾(かいだく)し「お願い英凜、これちょうだい。これはちょうだい!」と陽菜が懇願し「……別にいいけど」「ありがとお! やば、半分に切ってパスケースに入れようかな」と九十三先輩に残酷なことを言う。九十三先輩が捨てられてしまったら私が拾うことにしよう。


「おーはよー。あーすずしっ」

「あ、昴夜、おはよ」


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