ぼくらは群青を探している
そう、桜井くんはお盆過ぎに私の家に電話をかけてきて「ケータイ買った! 英凜のメアド教えて!」と言ってきた。お陰で口頭でメールアドレスを伝える羽目になった。ただ、桜井くんは必要に駆られて欲していただけらしく、意外と不必要にメールを送ってくることはなかった。今まで雲雀くんの携帯電話から「今日あそぼー」と連絡をくれていたのが桜井くんのメールになっただけ。そういうところはやっぱり男の子だ、偏見かもしれないけれど。
「てか父さんに言ったら『もっと早く持たせようと思ってたのにお前が要らないって言うから』って言われた」
「だろうな」
普通に考えて、父親が単身赴任で息子は一人で年老いた祖父と一緒に住んでいるだけ、なんて状況だったら息子に携帯電話を持たせない理由がない。きっと当時の桜井くんが頑強に突っぱねたに違いない。
「え、桜井、メアドに『blue_flock』って入ってんの? 群青大好きかよ」
「なんか設定の仕方わかんなくて永人さんに頼んだら勝手にこれにされた」
「情弱が世の食い物にされる瞬間を見た気がしてる」
「ごめん英凜なんて?」
「まあ英凜のメアドより百倍マシだけどな」
「ああ、『e.mkn』っていう温度ないメアドな」
「雲雀くんだってただの『feldlerche』じゃん!」
鳥のヒバリのドイツ語訳だ。憤慨すると「だからドイツ語にするあたりに温度あるだろ」と反論されたし「え、あれヒバリって意味なんだ! なんか知らないバンドの名前とかだと思ってた」と陽菜が今更ながらコメントした。
「えー、俺もなんかそういう自分のいいやつにしたい……英凜にやり方聞けばよかった……」
「別に何回でも変えられるんじゃないの?」
「そうなの?」
「でも変えたら先輩らに怒られそうだな」
「それこの間テレビで見た、パワハラってやつだ」
「っていうか二人とも、始業式その恰好で行くの?」
きょとんと桜井くんと雲雀くんは揃って目を丸くした。なにが? とでも聞こえてきそうだ。
「……始業式は風紀検査あるでしょ?」
「あー、そういやそんなのあったね」
呑気に返事をする桜井くんの開襟シャツは襟どころか全部開いている。インナーはオレンジ。どうせ好きな色だからと着てきたに違いない。相変わらず耳はピアスでズタズタだし、なんなら夏の間に一ヵ所増えたし……。隣の雲雀くんも似たような有様だ。
二人は「風紀検査のときだけよかったらスルーされんの?」「なんじゃねーの。じゃなきゃ風紀検査なんてやんねーだろ」と顔を見合わせて、渋々シャツのボタンを留め始める。
「ボタン留めたら二枚着てるようなもんじゃん、あちー」
「つか腕捲り禁止なんだっけ。最悪」
ブツブツと文句を言いながら身だしなみを整える二人 (なんなら雲雀くんは赤色のヘアピンまで外した)に「……うわ、なんか桜井と雲雀が制服ちゃんと着てんの似合わねえ」陽菜が私の心を代弁してくれた。でも春の間はちゃんとシャツを着ていたから、その頃を思えばそんなに違和感はない。ピアスだって、穴がある以上どうしようもないのでそのままだ。ただシャツをズボンの中へ入れ始めると本当に知らない人達みたいになった。
「てかさー、どうせ普段スルーしてんだからよくない? どうせ始業式終わった瞬間に無視じゃん、意味ある?」
「ないよな」
「てか父さんに言ったら『もっと早く持たせようと思ってたのにお前が要らないって言うから』って言われた」
「だろうな」
普通に考えて、父親が単身赴任で息子は一人で年老いた祖父と一緒に住んでいるだけ、なんて状況だったら息子に携帯電話を持たせない理由がない。きっと当時の桜井くんが頑強に突っぱねたに違いない。
「え、桜井、メアドに『blue_flock』って入ってんの? 群青大好きかよ」
「なんか設定の仕方わかんなくて永人さんに頼んだら勝手にこれにされた」
「情弱が世の食い物にされる瞬間を見た気がしてる」
「ごめん英凜なんて?」
「まあ英凜のメアドより百倍マシだけどな」
「ああ、『e.mkn』っていう温度ないメアドな」
「雲雀くんだってただの『feldlerche』じゃん!」
鳥のヒバリのドイツ語訳だ。憤慨すると「だからドイツ語にするあたりに温度あるだろ」と反論されたし「え、あれヒバリって意味なんだ! なんか知らないバンドの名前とかだと思ってた」と陽菜が今更ながらコメントした。
「えー、俺もなんかそういう自分のいいやつにしたい……英凜にやり方聞けばよかった……」
「別に何回でも変えられるんじゃないの?」
「そうなの?」
「でも変えたら先輩らに怒られそうだな」
「それこの間テレビで見た、パワハラってやつだ」
「っていうか二人とも、始業式その恰好で行くの?」
きょとんと桜井くんと雲雀くんは揃って目を丸くした。なにが? とでも聞こえてきそうだ。
「……始業式は風紀検査あるでしょ?」
「あー、そういやそんなのあったね」
呑気に返事をする桜井くんの開襟シャツは襟どころか全部開いている。インナーはオレンジ。どうせ好きな色だからと着てきたに違いない。相変わらず耳はピアスでズタズタだし、なんなら夏の間に一ヵ所増えたし……。隣の雲雀くんも似たような有様だ。
二人は「風紀検査のときだけよかったらスルーされんの?」「なんじゃねーの。じゃなきゃ風紀検査なんてやんねーだろ」と顔を見合わせて、渋々シャツのボタンを留め始める。
「ボタン留めたら二枚着てるようなもんじゃん、あちー」
「つか腕捲り禁止なんだっけ。最悪」
ブツブツと文句を言いながら身だしなみを整える二人 (なんなら雲雀くんは赤色のヘアピンまで外した)に「……うわ、なんか桜井と雲雀が制服ちゃんと着てんの似合わねえ」陽菜が私の心を代弁してくれた。でも春の間はちゃんとシャツを着ていたから、その頃を思えばそんなに違和感はない。ピアスだって、穴がある以上どうしようもないのでそのままだ。ただシャツをズボンの中へ入れ始めると本当に知らない人達みたいになった。
「てかさー、どうせ普段スルーしてんだからよくない? どうせ始業式終わった瞬間に無視じゃん、意味ある?」
「ないよな」