ぼくらは群青を探している
そんな有様になったのは桜井くん達だけじゃなくて、式の間見かける先輩達も一斉に身形を整えていた。お陰で九十三先輩に挨拶代わりに頭を叩かれたときは誰に何をされたのかさっぱり分からなかった。その代わり式と風紀検査が終わった後はいつものだらっとした姿になっていて、この学校はこれでいいのか、激しく不安になった。京くんが「受けない」と断言したのも分かる。
「三国、そのまま掃除行こうぜ」
「あ、うん」
「俺も体育館横がいいー、仲間外れきらーい」
「早く行けよ、うるせーな」
雲雀くんがしっしと桜井くんを追い払った後「体育館横の掃除ってどこに道具あるの?」「ここらへんに用具入れがある」「何で知ってるの」「この間先輩らがこれで野球してた」体育館横でモップとの間の子みたいな箒を取り出す。
「体育館横、北って書いてあったね。これ南側はしなくていいのかな」
「別のクラスがやってんじゃね」
本当は私と雲雀くんも東西に分かれて、それぞれの方向から掃除をする方が効率的だし合理的ではあったのだけれど「掃除時間長くて暇」という理由で、二人揃って東側から箒を掃く。
「……三国、お前特別科となんかあったの?」
「え?」
途端、雲雀くんが口にしたあまりにも突拍子のない話題に素っ頓狂な声が出てしまった。雲雀くんは眉を顰めているけれど、私のほうが眉を顰めたい。
「な……なんで?」
「なんか始業式の間、一組の連中がこっち見る空気おかしくなかったか?」
「……さあ……?」
そんな〝集団の空気〟なんて言われても何も分からないのだけれど……。目に見えないものは見えないです、と笑い飛ばしたいくらいさっぱり何も感じなかった。
「っていうか、こっち見てるだけなら桜井くんとか雲雀くんじゃないの? 普段と違って制服ちゃんと着てるから違和感があったとか」
「……お前見てる気がしたんだけど、気のせいか」
「……例えば胡桃が一組を出るときに『五組に海の写真持って行く』って言って、メンバーを聞いて、私と胡桃が一緒に遊ぶ仲だということにみんな驚いていた、とか」
「……なくはないけど、そうだとしても別にそんな驚く話じゃねーしな」
まいいか、と雲雀くんはかぶりを振った。きっとそんなどうでもいい話だ。
「そういえばきびだんごありがと。おばあちゃんも喜んでた」
雲雀くんはお盆の後に一週間ほど、お母さんの実家がある岡山へ行っていたらしい。お陰で桜井くんが「侑生が岡山行って暇だしドーナツ腐るから英凜ん家行っていい?」なんてメールを寄越す羽目になった。ちなみにうちに来て食べたら帰った。謎だったけど、最近のおばあちゃんは桜井くんを第二の孫みたいに可愛がり始めたのでよしとする。
「ああ。昴夜とか、毎年芸がないって言うくせに食べるんだよな」
「実際岡山って他になにかあるの」
「なんか、手を変え品を変えきびだんごがある」
「きびだんご以外ないじゃん、それ」
「あとは桃?」
「本当に全部桃太郎じゃん」
「おーふたーりさん」
ありがちに手より口を動かしていると九十三先輩の声が聞こえた。振り向けば、体育館の囲いに腕と顎を乗せてゆるっと微笑んでいる。その腕の中には箒があった。
「ラブラブの掃除時間なんて許しがたいなー。雲雀、俺と変わろ」
「暑いところ嫌いなんで」
「先輩、どこの掃除なんですか?」
「ん、武道場周辺」
「三国、そのまま掃除行こうぜ」
「あ、うん」
「俺も体育館横がいいー、仲間外れきらーい」
「早く行けよ、うるせーな」
雲雀くんがしっしと桜井くんを追い払った後「体育館横の掃除ってどこに道具あるの?」「ここらへんに用具入れがある」「何で知ってるの」「この間先輩らがこれで野球してた」体育館横でモップとの間の子みたいな箒を取り出す。
「体育館横、北って書いてあったね。これ南側はしなくていいのかな」
「別のクラスがやってんじゃね」
本当は私と雲雀くんも東西に分かれて、それぞれの方向から掃除をする方が効率的だし合理的ではあったのだけれど「掃除時間長くて暇」という理由で、二人揃って東側から箒を掃く。
「……三国、お前特別科となんかあったの?」
「え?」
途端、雲雀くんが口にしたあまりにも突拍子のない話題に素っ頓狂な声が出てしまった。雲雀くんは眉を顰めているけれど、私のほうが眉を顰めたい。
「な……なんで?」
「なんか始業式の間、一組の連中がこっち見る空気おかしくなかったか?」
「……さあ……?」
そんな〝集団の空気〟なんて言われても何も分からないのだけれど……。目に見えないものは見えないです、と笑い飛ばしたいくらいさっぱり何も感じなかった。
「っていうか、こっち見てるだけなら桜井くんとか雲雀くんじゃないの? 普段と違って制服ちゃんと着てるから違和感があったとか」
「……お前見てる気がしたんだけど、気のせいか」
「……例えば胡桃が一組を出るときに『五組に海の写真持って行く』って言って、メンバーを聞いて、私と胡桃が一緒に遊ぶ仲だということにみんな驚いていた、とか」
「……なくはないけど、そうだとしても別にそんな驚く話じゃねーしな」
まいいか、と雲雀くんはかぶりを振った。きっとそんなどうでもいい話だ。
「そういえばきびだんごありがと。おばあちゃんも喜んでた」
雲雀くんはお盆の後に一週間ほど、お母さんの実家がある岡山へ行っていたらしい。お陰で桜井くんが「侑生が岡山行って暇だしドーナツ腐るから英凜ん家行っていい?」なんてメールを寄越す羽目になった。ちなみにうちに来て食べたら帰った。謎だったけど、最近のおばあちゃんは桜井くんを第二の孫みたいに可愛がり始めたのでよしとする。
「ああ。昴夜とか、毎年芸がないって言うくせに食べるんだよな」
「実際岡山って他になにかあるの」
「なんか、手を変え品を変えきびだんごがある」
「きびだんご以外ないじゃん、それ」
「あとは桃?」
「本当に全部桃太郎じゃん」
「おーふたーりさん」
ありがちに手より口を動かしていると九十三先輩の声が聞こえた。振り向けば、体育館の囲いに腕と顎を乗せてゆるっと微笑んでいる。その腕の中には箒があった。
「ラブラブの掃除時間なんて許しがたいなー。雲雀、俺と変わろ」
「暑いところ嫌いなんで」
「先輩、どこの掃除なんですか?」
「ん、武道場周辺」