ぼくらは群青を探している
 武道場は体育館の真北なので、配置を離れているわけではないらしい。夏休みのうちに髪を切ったらしく、九十三先輩の長い前髪は目に少しかかるくらいまで短くなっていた。


「ねー、三国ちゃんって体育祭何色なの?」

「青色です」

「マジかよ」

「俺は赤ですよ」

「聞いてねー、しかも三国ちゃんじゃなくてお前かー」その口調からはどうやら九十三先輩は赤組らしく「まあ群青のメンツ、結構分散してんだけどな。あ、青組は芳喜いるよ」


 能勢さんか……。私が表情を曇らせてしまったせいで思い出したらしく「あ、そういや、夏祭りの話してなかったけどさあ」と例の件を口にする。


「俺が着いたの、結構後だったからさあ、詳しいことは分かんねーけど、三国ちゃんが襲われかけたんだろ? 相変わらず深緋はエッグイことするよなあ」

「……よく分かりましたね」

「そりゃな。三国ちゃんの浴衣ぐっしゃぐしゃだし、陽菜ちゃんもいるって聞いてたのにいねーし、あんな暗いとこにいるのも変だし。まあ俺以外も察したと思うよ。だからそこは俺があんま考えるとこじゃねーや」


 私達の反応をよそに九十三先輩はそのまま真面目な話に突入してしまった。


「で? なんであれ、永人と芳喜に言っちゃまずかったの」

「……それは、ですね……」


 蛍さんと能勢さんだけ、新庄しか知らないはずのことを知っているから――それをここではっきりと口に出していいものか。逡巡(しゅんじゅん)していると「蛍さんと能勢さんが新庄と組んでる可能性あるんで」と雲雀くんがズバリ口に出した。


「ひ、雲雀くん……」

「この際だろ、九十三先輩も巻き込め」

「……それマジで言ってる?」


 狼狽(ろうばい)する私の前で、九十三先輩は珍しく真面目な顔で眉を(ひそ)めた。


「新庄って、深緋の新庄だろ? 青蘭学園(あおがく)の一年」

「それです。俺らが西の死二神なら北の悪鬼(あっき)

「ねーよ。芳喜は知らねーけど、永人がそれはマジでない」本当に、有り得ない事象について口にするかのように「新庄、マジクソ有名なドゲスだろ? あれと永人が組んだら縁切れるわ」


 そん……なに……? 困惑する私と雲雀くんに「まあお前らが言うならそれなりになんか証拠あんだろうけどさあ、永人って時点で俺はナシって言えるかな」と九十三先輩は続ける。


「大体それ、永人が三国ちゃん襲わせたってことになるってことだろ? 有り得ねー、有り得ねー」パタパタと手を大きく横に振って「別の意味で襲うことはあってもそれはねーわ。群青のメンバー売るようなヤツじゃねーよ」


 群青のメンバーを売るようなヤツじゃない……。そのセリフからは、蛍さんがいかに群青を大事にしているかが伝わってくるけれど、一方で、蛍さんが群青を大事にしていればしているほど、蛍さんが私を利用する動機があることになる――そんなパラドックスがある。


「てか、永人、一年にそんなふうに思われてんだ。カーワイソ」

「そんだけ怪しいことがあったって話ですよ」

「……それが何かは聞かねえけどさあ、マジでない。新庄と組んでるつーなら服部とかじゃねーの? アイツ、永人と仲悪いし」


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