ぼくらは群青を探している
「だろ。でもって、もともと芳喜と永人は仲悪くもなかった。だから永人派(こっち)にも頭脳タイプ欲しいなあってのもありつつ、てか何より脳筋の服部にガチ頭脳つけるべきじゃねー、ついてるとして幹部にすりゃ身動きも制限できんだろってんで、とりあえず試しにNo.2に指名してみたわけ」

「暗に蛍さん側に寝返れって言ったわけですか」

「……その結果は?」

「さーあ? 保留中だよ、保留中。今のところ永人に従順だし、服部派つっても、別に服部に()び売ってたってわけでもねーし。なーんかね、アイツはよく分かんないんだな」


 ……先輩達から見ても、能勢さんはよく分からないのか。うーん、と考え込む私に「でもアイツが三国ちゃん襲うなんてことはないんじゃない? アイツ女癖悪いけどゲスじゃないし」と九十三先輩も首を傾げる。


「何疑ってるのか知らねーけどさ、さすがに三国ちゃんが襲われてんのは結構なメンツを白にすんじゃないかなあ。服部とか知らねーよ、アイツ脳筋だしモテないし、目の前に女ほいって差し出したら全然食うと思う。でも芳喜がなあ、そういうことするイメージは湧かねえなあ。アイツ、なんだかんだイイヤツだからね」


 ……私だってそう信じたいけど、だったらどうして能勢さんも蛍さんもあんなことを知っているのだろう。中学の同級生で、誰かその話を覚えていて、なおかつ口の軽い人がいるのだろうか――……。

 九十三先輩は「おい九十三ィ、先生来たぞ」「やべ。じゃーねー」先生の見回りを警戒して掃除に戻っていった。


「……なんだかんだイイヤツ、ね」

「ま、いい人だとは思うけどな、能勢さん。能勢さんのこと嫌いな人が口揃えるのって『モテる』『頭がいい』『金持ち』のどれかだし」

「ただの嫉妬の範疇(はんちゅう)ってことだよね。だったら一体……」


 やっぱり、蛍さんや能勢さんには、私達が見落としている情報源があるということだろうか。それならそうに越したとはないのだけれど。


「……やっぱ舜か」

「情報源として有り得るってこと? でも雲雀くん達、荒神くんは意外と口が堅いって言ってなかったっけ」

「雑談代わりに他人の病気の話なんてするヤツじゃねーけど、そうじゃなくて、そもそも蛍さんが持ってる〝耳〟なんじゃないかって」

「耳って? 間諜(かんちょう)みたいな?」


 先生の姿が見えたので声を潜めながら手を動かすと「みたいな。てかなんで咄嗟(とっさ)に出てくんのが間諜なんだよ」と鼻で笑われた。


「そんな感じ。もともと蛍さんにとって俺らが群青入るかは分からなかったわけだ。群青として一年の情報は欲しかったんじゃないかって考えると、舜がそれだった可能性はある」

「なんで荒神くんなの? 中津くんでいいじゃん」

「確かにそこは分かんねえな。ただ単純に舜が怪しい」雲雀くんは眉間に皺を寄せて「五月、新庄にお前が拉致られたことあったろ。あの時、蛍さんが舜になんて言ったか覚えてるか?」

「『荒神、お前は知らねー、一人で帰れ』」

「それ。でもそれより前に、アイツが蛍さんの前で名乗った場面なんてあったか?」


 ……言われてみれば、ない。実際、あの光景を見て、私だって荒神くんと蛍さんは面識があるのではないかと考えていたくらいだ。

< 355 / 522 >

この作品をシェア

pagetop