ぼくらは群青を探している
 ただ、それをいえば、高校生になってから荒神くんに初めて会った日――ファミレスで桜井くんと雲雀くんとご飯を食べていた日――荒神くんは既に能勢さんに桜井くんと雲雀くんを群青に誘うように言われていたし、蛍さんのことも「永人さん」なんて呼んでいた。


「……でも、荒神くんって、中学のときから二人と一緒にいるんでしょ? 二人に目をつけてる群青の人達は荒神くんのことを知ってるんじゃ」

「それにしては妙に親しみがあった、つかなんか呼び慣れてる感じあったんだよな。俺が気にしすぎかもしれねーけど」


 それは、私には分からなかった情報だ。でも雲雀くんがそう言うのならそうに違いない。


「……じゃあ荒神くんがそうだとして、荒神くんを群青に入れてないのも、群青のメンバーじゃない情報屋みたいな人間がほしいから?」

「さあ、そこまでは。でもそもそも蛍さんは一、二年の群青メンバーを絞ってる感じあるからな。もしかしたらそういうつもりかも」


 群青のメンバーを絞っている……。なんのために。そしてその基準はどこに。

 うんうん首を捻りながら足を進めると、別の話し声がしたので顔を上げた。どうやら雲雀くんの予想のとおり、体育館の南側は別のクラスが担当していたらしく、男女二人組が私達と似たように(ほうき)を持って喋っていた。

 そして最悪なことにその男子は笹部くんだった……。同時に合点がいった、体育館の南側は道路に面しているから、南側に外の人から見られても問題のない特別科の生徒を配置し、北側に普通科を配置していたのだろう。

 だからってよりによって笹部くんじゃなくてもいいのに……。気付かないふりをして(うつむ)こうとしたけれど、私が見た瞬間に笹部くんも私を見た。そんな運命じみた偶然なんて要らなかった。


「三国じゃん。ここ掃除なの」

「……まあ」

「見れば分かるだろ」


 箒の()に両手と(あご)を乗せた雲雀くんがボソッと悪態をついたので、ツッコミのつもりでその腰を叩いた。笹部くんの隣の女の子が「笹部、普通科に知り合いなんているの?」「ほら、女子のほうがあの三国だから。中学同じ」「あー、噂の三国さんか」と頷いて私を見る。

 代表挨拶をしたくせに普通科、そのくせ群青のメンバー、当然のように桜井くんと雲雀くんの仲良し。なんなら、美人局の一件なんて、私が他校生相手に「少年院行きたくなかったら群青に手を出すな」と息巻いたことになっていたとしてもおかしくない。最近心当たりがどんどん増えてきたせいでどの噂なのか見当もつかなかった。同時に(かえり)みれば顧みるほど自分の所業が心配になってきた。もしかして私、入学して以降、とんでもないことに片足どころか両足を突っ込んでいるのではないだろうか……。

 今まで自分の噂に気付いたことなんてなかったけれど、有り得る噂を考えるだけで気分が暗くなってきた。一年生の九月でこの有様なんて、我ながら先が思いやられる。


「ああ、まあ、それはさ、噂だし」


 ただ、その妙にどもった笹部くんの返事には首を捻った。心当たりのある噂の中に、笹部くんが私を擁護(ようご)するものは思い当たらない。


「それ、なんの噂?」


 こういうとき、雲雀くんの存在は心強い。私だったら首を傾げるだけで何も聞けない。ただ、ぶっきらぼうな声には威圧感があって、相手が屈服(くっぷく)して口を開いてしまう可能性と同じくらい、畏縮(いしゅく)して喋らなくなる効果を生む可能性がある。

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