ぼくらは群青を探している
笹部くんと女の子は目を泳がせた。でも女の子がすぐに「いや、ほら、三国さんって東中のときからすごい頭いいって言われてたのに、普通科だから、意外だなって話」と口走った。
「は? 嘘ついてんじゃねーよ、お前らが言ったの、そういう話じゃねーだろ」
そんな噂なら気まずい反応をする必要はないし、「噂だし」とあたかも信じるに値しないような否定をする必要はない、したがって嘘。あまりに単純明快な嘘だった。お陰で雲雀くんの声は剣呑さを帯びたし、女の子は首を竦ませた。
「笹部、お前、もしかしてまだ夏祭りと同じこと言ってんの?」
「夏祭りと同じってなんだよ」
「昴夜が三国と付き合ってんじゃねーのかって話だよ。別に相手が俺でも昴夜でも、お前にはどうでもいいんだろうけど」
ああ、例によってその話ね……。笹部くんのその認識の甘さ通り越して誤りには、最早耳を傾ける価値すらない。雲雀くんはの声は少し苛立っているけれど、苛立つだけ無駄というものだ。
「別に、そんな追及することないんじゃない。雲雀くん、掃除戻ろ」
風紀検査が終わった瞬間にはみ出しているシャツを軽く引っ張れば、雲雀くんは舌打ち混じりに踵を返し「別に俺が言ってんじゃねえし……」「は?」――たけれど、笹部くんの小さな呟きに苛立ち通り越して怒り混じりの返事をしながら振り向いた。
「お前今なんて?」
「雲雀くん、そんな相手にしないで……」
「いや俺が言ってんじゃなくて、そういう噂があるって話で……」
「んじゃお前は誰から聞いたんだよ」
そして私が諫めるのも聞かず、笹部くんの胸座を掴むときた。笹部くんはヒッと息を呑んだし、私だってギョッと目を剥いた。
「ひ、雲雀くん、そこまでしなくても! 私はそんなに気にしてないし! いや桜井くんと雲雀くんにはいい迷惑かもしれないけど……」
「俺らが迷惑つか、普通に見てて気持ち悪くね、コイツ。二年前にフラれた相手のことをブツブツ言いやがって。つか俺、声小さいヤツ嫌いなんだよ」
「つまり雲雀くんの好みの問題じゃん!?」
「だから俺が言ってるんじゃないんだって!」笹部くんは必死に弁解するように珍しく大きな声を出して「三国が雲雀と付き合ってんじゃないかっていうのは、夏休みからみんな言ってたんだよ! 写真あるから!」
……私と雲雀くん? しかも写真? 全く身に覚えがなくて、多分私と雲雀くんは揃って怪訝な顔をした。仮にあるとしても桜井くんと三人のセットだろうし……。群青の先輩達もいる中で海に行ったときのことならまだ切り取り用があるけれど、そうだとしたらありがちに過ぎる悪意のある切り取りだ。
「なんだその写真。出せよ」
「え、いや、俺は持ってないし……、クラスのヤツに見せられただけで……」
「は?」
「ご、ごめんなさい、私が持ってます!」
このままでは笹部くんが雲雀くんに殺されるとでも思ったのか、笹部くんとセットの女の子が慌てたようにパチッと携帯電話を開く音がした。雲雀くんは眉間に深く皺を寄せたまま、とりあえず笹部くんの胸座を離し、その子の手元を覗き込んだ。一見怖くてもやっぱり顔が整っているからなのか、それともただ男子だからなのか、その子の頬にはサッと朱が差す。手がまごつきながら「えっと……えっと、確か、夏祭りの後に来たメールで……」と携帯電話を操作する。
「こ、これです……」
「は? 嘘ついてんじゃねーよ、お前らが言ったの、そういう話じゃねーだろ」
そんな噂なら気まずい反応をする必要はないし、「噂だし」とあたかも信じるに値しないような否定をする必要はない、したがって嘘。あまりに単純明快な嘘だった。お陰で雲雀くんの声は剣呑さを帯びたし、女の子は首を竦ませた。
「笹部、お前、もしかしてまだ夏祭りと同じこと言ってんの?」
「夏祭りと同じってなんだよ」
「昴夜が三国と付き合ってんじゃねーのかって話だよ。別に相手が俺でも昴夜でも、お前にはどうでもいいんだろうけど」
ああ、例によってその話ね……。笹部くんのその認識の甘さ通り越して誤りには、最早耳を傾ける価値すらない。雲雀くんはの声は少し苛立っているけれど、苛立つだけ無駄というものだ。
「別に、そんな追及することないんじゃない。雲雀くん、掃除戻ろ」
風紀検査が終わった瞬間にはみ出しているシャツを軽く引っ張れば、雲雀くんは舌打ち混じりに踵を返し「別に俺が言ってんじゃねえし……」「は?」――たけれど、笹部くんの小さな呟きに苛立ち通り越して怒り混じりの返事をしながら振り向いた。
「お前今なんて?」
「雲雀くん、そんな相手にしないで……」
「いや俺が言ってんじゃなくて、そういう噂があるって話で……」
「んじゃお前は誰から聞いたんだよ」
そして私が諫めるのも聞かず、笹部くんの胸座を掴むときた。笹部くんはヒッと息を呑んだし、私だってギョッと目を剥いた。
「ひ、雲雀くん、そこまでしなくても! 私はそんなに気にしてないし! いや桜井くんと雲雀くんにはいい迷惑かもしれないけど……」
「俺らが迷惑つか、普通に見てて気持ち悪くね、コイツ。二年前にフラれた相手のことをブツブツ言いやがって。つか俺、声小さいヤツ嫌いなんだよ」
「つまり雲雀くんの好みの問題じゃん!?」
「だから俺が言ってるんじゃないんだって!」笹部くんは必死に弁解するように珍しく大きな声を出して「三国が雲雀と付き合ってんじゃないかっていうのは、夏休みからみんな言ってたんだよ! 写真あるから!」
……私と雲雀くん? しかも写真? 全く身に覚えがなくて、多分私と雲雀くんは揃って怪訝な顔をした。仮にあるとしても桜井くんと三人のセットだろうし……。群青の先輩達もいる中で海に行ったときのことならまだ切り取り用があるけれど、そうだとしたらありがちに過ぎる悪意のある切り取りだ。
「なんだその写真。出せよ」
「え、いや、俺は持ってないし……、クラスのヤツに見せられただけで……」
「は?」
「ご、ごめんなさい、私が持ってます!」
このままでは笹部くんが雲雀くんに殺されるとでも思ったのか、笹部くんとセットの女の子が慌てたようにパチッと携帯電話を開く音がした。雲雀くんは眉間に深く皺を寄せたまま、とりあえず笹部くんの胸座を離し、その子の手元を覗き込んだ。一見怖くてもやっぱり顔が整っているからなのか、それともただ男子だからなのか、その子の頬にはサッと朱が差す。手がまごつきながら「えっと……えっと、確か、夏祭りの後に来たメールで……」と携帯電話を操作する。
「こ、これです……」