ぼくらは群青を探している
画面を見せられた雲雀くんの目から温度が消えた。そのまま携帯電話をもぎ取るので、私も慌てて首を伸ばした――けれど、雲雀くんの腕に邪魔された。
「え、え、なんで、私の写真でしょ?」
「俺が見たからいい」
「こういうのは自分で見ないと」
「この差出人の寺持って誰?」
雲雀くんは私を無視して女の子に尋ね「え、普通にクラスの……一組の人、です……」と女の子が怯えきって震えた声で答え「コイツ仲良いの」「え、まあ……いい、ですけど……」「で、アンタこれ誰かに送ったの」「お、送ってないです……」「本当か?」そのまま尋問を始める。
「ねえ雲雀くん、それ何の写真なの」
「だから三国はいいって……」
半ば煩わしそうに腕で私を押しのけようとする雲雀くんの腕を掴み、やっと覗き込んだ。携帯の液晶画面には受信メールが表示されていて、件名「Re:無題」本文「これ! 顔微妙だけど、浴衣が同じで、しかもなんか珍しいやつだって。名推理」とあまり論理的でない文章が書かれている。
その下に表示されている添付写真は「ほとんど真っ黒でよく分からない」というのが一見した印象だ。その代わり、その真っ暗な長方形の真ん中に注目すれば、それが建物の前で抱き合っている二人組だというはすぐ分かる――特に当事者には。
「これ」
夏祭りの日、社の前にいる私と雲雀くんの写真だ。しかも、まるで狙いすましたかのように、私が雲雀くんに抱き着き、雲雀くんに抱きしめ返されているときの様子だ。画像自体は荒いし、暗がりでの撮影で色は判然としないけれど、それこそ――メール本文のとおり――私の浴衣を知っていれば、この少し古典的な柄は私だと分からなくはない。それが難しいとしても、雲雀くんの顔とシルエットは判別できなくはない。どちらかというと、これが雲雀くんだという事実から相手を私に絞り、その日の私に関する情報とをすり合わせ、矛盾がないから私と判断すると、といった理屈な気がした。
「だから見なくていいつったろ」
それを考えた私はどんな顔をしていたのだろう。雲雀くんは素早く私の視界からそのメール画面を消した。
「で、この寺持がなんでこんな写真持ってんの?」
「……それは、普通にいつもの雑談って感じで、あの三国さんに彼氏できたみたいな話で……三年の先輩と付き合ってるって噂あるけど本命は一年で、桜井くんと雲雀くんと仲良いのは有名だから、その二人のどっちかなのってなって、どっちでしょうって言われて……」
「んなことどうでもいいんだよ。お前らがどんな遣り取りしてたかなんて聞いてねーだろ、なんでコイツはこの写真持ってんだって聞いてんだよ」
「それは……」
「つか、笹部」雲雀くんは携帯電話を押し付けるように返してもう一度笹部くんに向き直り「この写真見て、相手が三国だって言い始めたの、お前だろ」
「へ?」
「惚けてんじゃねーよ、こんな荒い画像で俺はともかく三国が分かるわけねーだろ。もしかして撮ったのお前か?」
「ち、がうに決まってんだろ! 大体、そう言うってことは、お前と三国で間違いないんだろ! 付き合ってんだろ!」
「ちげーよ。マジでなんでそうなるのか理解できねーんだけど」
「だって抱き合ってるだろ、その写真! なんでもないのに抱き合ってるわけねえじゃん、大体この日、桜井と池田も一緒にいたくせに、わざわざ二人で抜け出してこんな暗いところで――」
バァンッ、と地響きにも似た音が響き渡り、冗談じゃなく体が飛び上がった。
「え、え、なんで、私の写真でしょ?」
「俺が見たからいい」
「こういうのは自分で見ないと」
「この差出人の寺持って誰?」
雲雀くんは私を無視して女の子に尋ね「え、普通にクラスの……一組の人、です……」と女の子が怯えきって震えた声で答え「コイツ仲良いの」「え、まあ……いい、ですけど……」「で、アンタこれ誰かに送ったの」「お、送ってないです……」「本当か?」そのまま尋問を始める。
「ねえ雲雀くん、それ何の写真なの」
「だから三国はいいって……」
半ば煩わしそうに腕で私を押しのけようとする雲雀くんの腕を掴み、やっと覗き込んだ。携帯の液晶画面には受信メールが表示されていて、件名「Re:無題」本文「これ! 顔微妙だけど、浴衣が同じで、しかもなんか珍しいやつだって。名推理」とあまり論理的でない文章が書かれている。
その下に表示されている添付写真は「ほとんど真っ黒でよく分からない」というのが一見した印象だ。その代わり、その真っ暗な長方形の真ん中に注目すれば、それが建物の前で抱き合っている二人組だというはすぐ分かる――特に当事者には。
「これ」
夏祭りの日、社の前にいる私と雲雀くんの写真だ。しかも、まるで狙いすましたかのように、私が雲雀くんに抱き着き、雲雀くんに抱きしめ返されているときの様子だ。画像自体は荒いし、暗がりでの撮影で色は判然としないけれど、それこそ――メール本文のとおり――私の浴衣を知っていれば、この少し古典的な柄は私だと分からなくはない。それが難しいとしても、雲雀くんの顔とシルエットは判別できなくはない。どちらかというと、これが雲雀くんだという事実から相手を私に絞り、その日の私に関する情報とをすり合わせ、矛盾がないから私と判断すると、といった理屈な気がした。
「だから見なくていいつったろ」
それを考えた私はどんな顔をしていたのだろう。雲雀くんは素早く私の視界からそのメール画面を消した。
「で、この寺持がなんでこんな写真持ってんの?」
「……それは、普通にいつもの雑談って感じで、あの三国さんに彼氏できたみたいな話で……三年の先輩と付き合ってるって噂あるけど本命は一年で、桜井くんと雲雀くんと仲良いのは有名だから、その二人のどっちかなのってなって、どっちでしょうって言われて……」
「んなことどうでもいいんだよ。お前らがどんな遣り取りしてたかなんて聞いてねーだろ、なんでコイツはこの写真持ってんだって聞いてんだよ」
「それは……」
「つか、笹部」雲雀くんは携帯電話を押し付けるように返してもう一度笹部くんに向き直り「この写真見て、相手が三国だって言い始めたの、お前だろ」
「へ?」
「惚けてんじゃねーよ、こんな荒い画像で俺はともかく三国が分かるわけねーだろ。もしかして撮ったのお前か?」
「ち、がうに決まってんだろ! 大体、そう言うってことは、お前と三国で間違いないんだろ! 付き合ってんだろ!」
「ちげーよ。マジでなんでそうなるのか理解できねーんだけど」
「だって抱き合ってるだろ、その写真! なんでもないのに抱き合ってるわけねえじゃん、大体この日、桜井と池田も一緒にいたくせに、わざわざ二人で抜け出してこんな暗いところで――」
バァンッ、と地響きにも似た音が響き渡り、冗談じゃなく体が飛び上がった。