ぼくらは群青を探している
 そして、ここまでの騒ぎになれば先生の誰かが聞きつけないはずがなく「またお前らか!」と怒鳴り声が聞こえた。きっと遠くからでも九十三先輩の頭は見つけやすくて、群青が騒ぎを起こしたと分かったのだろう。やってきた先生は、名前は知らない先生だったけれど、そのジャージ姿で体育の先生だということは分かった。その先生は怪我をした笹部くんを見て仰天(ぎょうてん)して「誰か、井田先生呼んで来い、保健室にいらっしゃるから」と野次馬に指示を出し、雲雀くんの「俺がやりました」というのを聞いて「何を考えているんだ」と怒鳴り散らかして、そのまま生徒指導室に来るように言った。九十三先輩と能勢さんが顔を見合わせれば「関係ないヤツは戻れ、戻れ」と手を振る。


「……あの、生徒指導室、私も」

「お前、一年の三国か。関係ないヤツは戻れ」

「私も関係あります。私の話なので」


 意味が分からん、お前の話っていったい何のことだ、そう言いたげに先生は眉を顰めたし、雲雀くんも「お前関係なくね」なんてまた嘘を吐くから、逃がさないようにそのシャツの(すそ)を握り締めた。


「……私が悪かったっていう話が発端なので」


 先生は「殴ったのは雲雀なんだろ」「どんな理由があっても人を殴るほうが悪い」「理由は関係ない」なんて言っていたけれど「殴った本人以外に状況を話す人はいたほうがいいんじゃないですか?」なんて能勢さんがとりなしてくれたお陰か、不承不承ながらも私も生徒指導室へ行くことを許可してくれた。

 ただ結局、私がどれだけ話をしても「どんな理由があっても人を殴るほうが悪い」というその先生の持論が結論になり、雲雀くんの停学が決まっただけだった。

 お説教が終わった後、二人で生徒指導室を出ると、もう掃除時間は終わっていた。ただ廊下は静まり返っていて、頭の中に今日の時間割を浮かべる。この時間は新学期のホームルームだ。となると、いま教室に戻るとホームルームの途中になってしまう。ただでさえ注目を集めてしまった後なのに、そういうことはしたくなかった。

 このまま、どこかで時間を潰してしまおうか。そんな気持ちでそっと雲雀くんを見上げた。雲雀くんは当然まだ不機嫌そうだった。


「……雲雀くん、ごめんね」


 目だけが私を見下ろす。私が原因で不機嫌になっているように思えて、少しだけ怖かった。


「……三国が謝ることじゃねーだろ。笹部がクソ」


 ……雲雀くんはそう言ってくれるから、安心なのだけれど。


「……でももともとは笹部くんと私の問題だし」

「だからそれが笹部がクソ。二年前にフラれた相手に因縁つけて、マジでプライドの方向間違ってんだよな」


 どこか呆れるように、雲雀くんの口からは大きな溜息が出た。そのまま足が動き……、ただ、教室の方向へは行かない。


「……どこ行くの?」

「帰る」

「え」

「どうせ今日の小論模試なんて時間の無駄だろ」

「カバンは?」

「財布とケータイは持ってるから要らね」


 そんなこと言ったって真面目な雲雀くんは家で勉強するくせに。ああでも、今日は始業式だからもともとほとんど荷物は持ってきていないのか。それにしたって、停学の丸一週間カバンを学校に置き去りにするのはさすがにちょっとどこか抵抗があるんじゃないだろうか。

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