ぼくらは群青を探している
陽菜は私が拉致されたことと写真とを結びつけなかったけれど、桜井くんが珍しく勘の良さを発揮した。慌てて「それとは別、大丈夫、それはないみたい」と首を横に振る。
とはいえ……雲雀くんに抱きしめてもらってたなんて、二人に言えるはずがない。
「……上手い具合に切り取られて、私と雲雀くんが付き合ってるように見える写真、みたいな……」
「……あ! もしかしてそれ知ってっかも!」
ピンときたように目と口を丸くする陽菜を見て、笹部くんが「夏休みのときから」「みんな言ってた」と執拗に口にしていたことを思い出す。私は部活もないから学校になんて行かないし、会う友達なんて陽菜か雲雀くんか群青の先輩かくらいしかいなかったけれど、陽菜は部活で夏休みの間も友達に会っているのだ。
「……陽菜も見せられた?」
「見た見た、つか一瞬英凜って分かんなかったけど」
隣の桜井くんが「?」と頭上に浮かんでいそうな顔で首を傾げている。でも陽菜は気にせず続けた。
「でもほら、あたしと英凜が離れたのって英凜が攫われた後だったからさ、これ絶対英凜が攫われて雲雀が助けたとこだなって分かったんだよね。だから『よく分かんないけど付き合ってない!』って言っといた。あと英凜のことだから付き合ったら絶対教えてくれるしって」
「……つまり笹部を殴ればいいのか」
ピンと来たぞ、とでも言いたげに人差し指を立てる桜井くんを、どうどうと陽菜が諫めた。もう雲雀くんに殴られた後だ。
でも……、桜井くんの言わんとしていることは分かる。つまりその噂は陽菜が否定していた。もしそれでも本当に噂があったのだとすれば、笹部くんが――もしかしたら笹部くんじゃないのかもしれないけれど――頑強に噂を流そうとしたに違いない。
「……なんか私嫌われるようなことしたかな」
「誰に? 笹部に? フラれたから嫌いなんて言われたって気にしなくていいじゃん、俺だってお前のこと嫌いだよーって」
「……確かに笹部くんに嫌われるのは仕方ないし正直どうでもいいところはあるけど」
「お前本当に薄情なヤツだよな」
「そんなもんじゃん? いちいち気にしてらんねーよ」
「……そういう意味では、噂を流したのが笹部くんじゃなかったときのほうが気になるかな」
特別科に知り合いは……もちろんいるけど、一緒に遊ぶほど仲が良い子はいないし、嫌われるほど関わり合いになってる人なんていない。
「英凜、群青に入っちゃってから有名人だしな」
「……そういう観点だと、私に手を出したら群青が出てくるとか思わないのかな」
「あ、そういえば能勢さんが笹部に説教してたらしいよ。説教ってか、『それじゃあモテないよ』って言っただけだけど」
「うわ……男子なら能勢さんにそれ言われると死にたくなりそう……非モテの烙印だ……」
まるで男子の気持ちが分かるかのように、陽菜は肩を抱き悲痛そうに顔を歪める。
「てか笹部もよく雲雀の前で喧嘩売れたよな。殴られるって分かってたろ」
「確かに。なんでだろ、侑生のこと怖くなかったのかな」
「学校なら殴られないって思ってたんじゃね」
「んー、それはねー、俺とか能勢さんとか、理性的なタイプだけ。侑生は怒ると怖いからね、お巡りさんの前以外なら殴ると思うよ」
「能勢さんは分かるけど桜井は理性的じゃねーだろ」
「え、だから意外と俺と侑生って中身逆なんだよ! キレるとヤバイのは侑生!」
とはいえ……雲雀くんに抱きしめてもらってたなんて、二人に言えるはずがない。
「……上手い具合に切り取られて、私と雲雀くんが付き合ってるように見える写真、みたいな……」
「……あ! もしかしてそれ知ってっかも!」
ピンときたように目と口を丸くする陽菜を見て、笹部くんが「夏休みのときから」「みんな言ってた」と執拗に口にしていたことを思い出す。私は部活もないから学校になんて行かないし、会う友達なんて陽菜か雲雀くんか群青の先輩かくらいしかいなかったけれど、陽菜は部活で夏休みの間も友達に会っているのだ。
「……陽菜も見せられた?」
「見た見た、つか一瞬英凜って分かんなかったけど」
隣の桜井くんが「?」と頭上に浮かんでいそうな顔で首を傾げている。でも陽菜は気にせず続けた。
「でもほら、あたしと英凜が離れたのって英凜が攫われた後だったからさ、これ絶対英凜が攫われて雲雀が助けたとこだなって分かったんだよね。だから『よく分かんないけど付き合ってない!』って言っといた。あと英凜のことだから付き合ったら絶対教えてくれるしって」
「……つまり笹部を殴ればいいのか」
ピンと来たぞ、とでも言いたげに人差し指を立てる桜井くんを、どうどうと陽菜が諫めた。もう雲雀くんに殴られた後だ。
でも……、桜井くんの言わんとしていることは分かる。つまりその噂は陽菜が否定していた。もしそれでも本当に噂があったのだとすれば、笹部くんが――もしかしたら笹部くんじゃないのかもしれないけれど――頑強に噂を流そうとしたに違いない。
「……なんか私嫌われるようなことしたかな」
「誰に? 笹部に? フラれたから嫌いなんて言われたって気にしなくていいじゃん、俺だってお前のこと嫌いだよーって」
「……確かに笹部くんに嫌われるのは仕方ないし正直どうでもいいところはあるけど」
「お前本当に薄情なヤツだよな」
「そんなもんじゃん? いちいち気にしてらんねーよ」
「……そういう意味では、噂を流したのが笹部くんじゃなかったときのほうが気になるかな」
特別科に知り合いは……もちろんいるけど、一緒に遊ぶほど仲が良い子はいないし、嫌われるほど関わり合いになってる人なんていない。
「英凜、群青に入っちゃってから有名人だしな」
「……そういう観点だと、私に手を出したら群青が出てくるとか思わないのかな」
「あ、そういえば能勢さんが笹部に説教してたらしいよ。説教ってか、『それじゃあモテないよ』って言っただけだけど」
「うわ……男子なら能勢さんにそれ言われると死にたくなりそう……非モテの烙印だ……」
まるで男子の気持ちが分かるかのように、陽菜は肩を抱き悲痛そうに顔を歪める。
「てか笹部もよく雲雀の前で喧嘩売れたよな。殴られるって分かってたろ」
「確かに。なんでだろ、侑生のこと怖くなかったのかな」
「学校なら殴られないって思ってたんじゃね」
「んー、それはねー、俺とか能勢さんとか、理性的なタイプだけ。侑生は怒ると怖いからね、お巡りさんの前以外なら殴ると思うよ」
「能勢さんは分かるけど桜井は理性的じゃねーだろ」
「え、だから意外と俺と侑生って中身逆なんだよ! キレるとヤバイのは侑生!」