ぼくらは群青を探している
「その……なんか、明確に、雲雀くんのこと好きとか……いや好きなんだけど……その、それってなにか特別な好きなのとか言われたら……」

「え、でもお前笹部のことは即フッたじゃん。雲雀はそうじゃないんじゃん?」


 ……言われてみれば確かに。笹部くんには、告白されてびっくりはしたけれど、悩む余地はなかった。酷い言葉を使っていいのなら、有り得ないとさえ思った。

 でも雲雀くんにそんなことは思わなかった。それは雲雀くんが最初から猶予(ゆうよ)をくれたからとか、そんなことが理由ではない気はする。


「……雲雀くんは……ほら、笹部くんと違って……仲良しだし……」

「笹部よりイケメンだしな!」

「……それはそうだろうけど……」

「てか無理じゃないなら付き合う一択だろ。あの雲雀だぞ! あの見た目なのに特別科からラブレターを貰うあの雲雀!」

「そう……なの?」


 それは初耳なのだが……。しかもラブレターといえば下駄箱に入っているのをイメージするけど、雲雀くんと一緒に帰るときにそんなものを見た記憶はない。でもさすがにそんな具体的なデマは流れないだろうから、本当なのだろう。


「ま、頭が銀色なのがヤベーだけでマジ顔いいしな。背高いし、細マッチョだし、クールだし、大人っぽいし、家金持ちだし、運動神経クソ良いらしいし、ほら赤組一年のリレー選手だし! てか英凜がいなかったらぶっちぎり一番だしな。知ってた? 模試の点数って雲雀と笹部の間に四〇点差あるんだってさ。あ、笹部、七月の模試三位だったんだって」

「……そんな話誰に聞くの」

「ほら、一組って学年主任の佐久間(さくま)先生じゃん。で、夏休みに模試の結果返ってきたじゃん? 一位と二位が普通科にいてめっちゃ負けてるってめっちゃ怒られたんだって。夏休みの間にちゃんと挽回しろみたいな」

「へえ……」

「てかあれか、そういう話聞いたから笹部も雲雀に喧嘩売ったのかな? 自分より英凜と仲良しだし成績も良いしみたいな。やっぱダサイな!」


 あっけらかんと嫌味なく明るく言いながら「てか何の話だっけ、そうだよ雲雀だよ」と超特急で戻る。


「いいじゃん雲雀と付き合えば! なんでだめなの?」

「なんでって……だからそれは明確な感情が……」

「どーせ付き合ってるうちに好きになるって。うぁーだめだ想像するだけでもあたしがキュンキュンする。死んじゃう」


 まるで陽菜が当事者だ。ロッカーの上に腕と頭を乗せながら(もだ)えている。


「ま、でも桜井と仲良いから気になんのか」

「……気になるって?」

「え、だってほら、雲雀と付き合ったら雲雀とデートすんじゃん。今まで桜井と三人だったのか雲雀と二人だろ。桜井が泣きそう」


 ……桜井くんが泣くのか。それはやっぱり、ちょっと、寂しいような、申し訳ないような……。


「でも桜井は胡桃ちゃんと付き合うからいっか!」

「……付き合うの?」

「どーせあんなの秒読みだって。胡桃ちゃん、一学期に告白された人数、十二人だってさ! 全部断ってんだよ、桜井を好き以外に理由ないだろ」


 それは桜井くんが胡桃と付き合う理由とは違う気がするけれど、要は胡桃だって特定の好きな相手がいなければ誰かにはいい返事をしているだろうし、ということは特定の相手がいるのだろうし、そしてその特定の相手として思い当たるのは桜井くんくらいだし、という道筋での推察だろう。やや説得力に欠けるけど。

 そして胡桃が好きなら結果なんて見えている、と。


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