ぼくらは群青を探している
「だから別に桜井のことも気にしなくていいんじゃん?」

「……そうなのかな」


 でも、それは桜井くんが寂しくないというだけの話であって、私の感情とはまた別の話だ。

 美人局の前に桜井くんの家で背比べをしたこととか、うちに来て二人が夕飯まで食べて帰ったこととか、夏休みに雲雀くんの家で映画を見ていたことを思い出す。雲雀くんと付き合ったら、ああやって三人で過ごすことはなくなるのだろうか……。

 誕生日だって、再来週には桜井くんと雲雀くんの誕生日がやってくるのに、私は雲雀くんの誕生日しかお祝いしないのだろうか。じゃあ桜井くんの誕生日は誰がお祝いするんだろう。おばあちゃんに「桜井くんと雲雀くんの誕生日って一緒なんだって」と話したら「じゃあ一緒にお祝いしてあげんとね」と言われたし私もそのつもりだったけど、雲雀くんと付き合ってしまったら、それはどうなる……。


「っていうか……付き合うって何……」

「そりゃデートするとか、キスするとか」

「……………………」

「雲雀手早そー! でも意外と大事にしそー! 大事にしてくれ、頼む、手早そうな雲雀のそれ萌える!」


 本当に、私じゃなくて陽菜が当事者であるかのように、ロッカーの上に腕と頭を乗せながら(もだ)えている。


「てかそうだよ、そういうので決めればいいんだよ。雲雀とキスできるなら付き合えばいいんじゃね」

「…………」

「笹部とは無理だろ?」

「無理、ちょっと、気持ち悪い」

「ほらあ。雲雀は無理?」

「……ちょっと想像させないで。頭がショートする」


 冷房のない廊下の暑さにやられてしまったのか、それとも私自身が発熱しているのか、どちらとも分からなかった。額を押さえて屈みこむ。


「……大体、停学明けくらいでいいって言われたから一朝一夕(いっちょういっせき)で答えを出さなくても……」

「え、じゃあ体育祭で返事すんの。汗と泥まみれで雰囲気ねーなー」

「……雰囲気って」

「あーあー、英凜に彼氏かー。しかも雲雀かー。いいなー。あたしも能勢さんと付き合いたいー」


 なんだか、陽菜の中ではすっかり私と雲雀くんが付き合うことで決まってしまっている。……というか、そうか、見ていた人が「そのまま公開告白しそうな雰囲気」と言っていたということは、雲雀くんの懸念(けねん)どおり、雲雀くんの停学が明ける頃には雲雀くんが私を好きだなんて噂が回りきっていたのかもしれない。

 でも私がその空気を読むことができたかどうかは、また別。そしてそれは、もう分からない話だった。
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