ぼくらは群青を探している
 ドキリと、心臓が揺れる。ついさっき飲み込んだばかりの言葉が姿を変えて跳ね返ってきたように思えた。

 桜井くんと雲雀くんは、それをおかしいと感じただろうか? つい視線を彷徨(さまよ)わせる。


「ま、代表挨拶して入るんだもんな。そんくらい覚えてるよなあ」


 でも、桜井くんはそんなことを言うだけで、特段気にした素振りはなかった。慌てて雲雀くんを見たけれど、雲雀くんなんて「つか飯食わね」なんてメニューを捲っている有様だ。

 ほ……と胸を撫で下ろす。同時に、今日だけでも何度崖っぷちに立たされたか分からないことに気づいてしまい、ほんの少し動悸がし始めた。


「んー、と、で、三国ってめっちゃ頭良い附属行くって話じゃなかったっけ」

「それはただの噂。隣のクラスの山谷さんの名前が絵梨で、その山谷さんが県外の高校を受けるって話になってたらしいんだけど、その話が『エリは県外の高校を受験する』って形で池田陽菜の耳に入って、陽菜が『英凜が受験するってことは附属高校に違いない』って勘違いしたってわけ」

「あー……なるほどね、そういう。噂ってやっぱ噂だな」


 その話には、荒神くんだけでなく桜井くんと雲雀くんも頷き、少し感心していた。


「なるほどな、そうやって分解されると分かりやすい、つかめっちゃ納得した」

「その全容を知ってんのもすげーけどな」

「別にそんな大したことじゃ。噂は出所と出方──原文を見つければ、大体事実の曖昧なところを誰かが勘違いで補ってるって分かるよ」


 それはある意味当然の事実確認方法だったのだけれど、途端「んァー!」と荒神くんが頭をくしゃくしゃにかき混ぜた。茶色い髪はサラサラなのでそんなことをしたって変な乱れ方はせず、それどころかふわりと元の位置に戻る。


「三国、本当にそういうところ! その頭の良さがなければ俺は三国が好きだったのに!」


 その「好き」の意味を理解できずに機能停止してしまったけれど、二人が動じる様子はなく、なんなら「お前は女ならなんでも好きだろ」なんて一蹴(いっしゅう)するのできっとただの挨拶だ。桜井くんに言わせれば握手したら妊娠するらしいし、たらればの告白は挨拶と同義なのだろう。


「違うんだよ、好きだけどさあ、可愛い子はみんな好きだけどさあ、違うの! 俺は頭のいい子は無理なの!」

「なんで?」

「だって頭がいいわけじゃん? なんかこう、上手く丸め込めないんだよね、別に(だま)そうとしてるわけじゃないんだけど」


 冷ややかな眼差(まなざ)しを向けてしまったせいか、荒神くんは私と目を合わせた瞬間に後半を付け加えた。


「すっごい(ささ)やかなことでもすーぐアラに気づいちゃう。俺はそういうのイヤなの、お互い楽しくやりたいの」

「……はあ、そうですか」

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