ぼくらは群青を探している
(3)利害
「三国さんっているじゃん、普通科の。笹部に泣かされたんだって」
「で、それ見た例の雲雀が笹部ぶん殴って」
「俺の好きな女泣かせてんじゃねーよって怒鳴ったらしいよ」
「笹部くんは怪我酷すぎてずっと休んでるんだって。黄組一年のリレー選手も交代するらしいよ」
「群青の三年が出てきて、一緒に笹部くんのこと殴ったらしいよ」
「三国さん泣かせたら群青出てくんの? コワァ……」
雲雀くんが停学になって三日、例の懸念事項は、想像以上の勢いと尾ひれをつけた現実となっていた。
お陰で体育館には「三国はいるかァ」と扉を蹴破りそうな勢いで蛍さん、九十三先輩、その他群青の先輩達がやってきた。体育館内で色別ダンスの練習していた青組のメンバーは、練習途中にもかかわらずザザザザッと一斉に反対側に避難した。ちなみにあと十分もすれば昼休みなのだけれど、きっと蛍さん御一行 (みんな赤色のハチマキをつけているのできっと赤組の先輩達だ)は少し早く練習が終わったのだろう。
そしてみんなが避難した結果、ぽつりぽつりと体育館の真ん中に私や桜井くん、能勢さんといった群青メンバーが残される。蛍さん達がステージ横に終結するので、私達もなんとなくそれに合わせてわらわらと集まる羽目になった。
「……います……こんにちは……」
「お前、一年一組の笹部唯人に泣かされたってマジか?」
泣かされていない……。ぶんぶんと首を横に振ると、後ろの九十三先輩が「ほーらね。だから言ったじゃん」と肩を竦め、能勢さんが「いや、九十三先輩が三国ちゃん泣きそうだったって言い始めたんじゃないですか」……誤った噂はこうして広まるのだと原因を目の当たりにした。
「……泣いてないですし、泣きそうにもなってないです。安心してください」
「てか泣いてたらどうすんの? 笹部殴るの? 俺も行く」
「殴らないの、行かないの」
あどけない顔で暴力的なことを口にする桜井くんに額を押さえた。蛍さんはひょいとステージに腰掛けて「んで、雲雀は?」とトントンステージを指で叩く。
「元気か?」
「元気元気。ずっとモンハンしてるもん、なんかめっちゃ武器増えててさ」
「いーなー、俺も笹部くん殴って停学食らえばよかったぁー」
嘯きながら同じくステージに腰掛けた九十三先輩を「先輩は受験生でしょ」と能勢さんはステージに背を預けながら窘める。でもそこの問題ではない気がした。
「んで、結局お前と雲雀付き合ってんの」
「…………本当に噂って迷惑ですよね」
ドッドッドッと心臓がうるさく鳴り始めたことに気付かれないよう、精一杯冷ややかな声を出した。でも蛍さん達含め、先輩達は珍しく興味津々(きょうみしんしん)で、その顔はコイバナへの下世話な期待で爛々(らんらん)と輝いている。
「別に……そういうことは何も……」
「噂だと公開告白って聞いたぞ」
「だからあ、それはやってないんだって話したじゃん。雲雀は『俺が抱きしめたんだよ』って言っただけ」
「いやあ、気になりますよねえ、いつどうやって抱きしめてたんでしょうねえ」
「夏祭りだろ? 帰りもそんな感じだったじゃねーか、なんか顔に手当ててたし」
「あー、こんな感じね、こんな感じ」
「俺で試さないでくださいよ気持ち悪い」
「でも雲雀に彼女できるのはなんか許せねえなー。あのスカした態度で『三国は俺の彼女ですけど』とか言われるの想像しただけでムカつくー、てか想像したら三国ちゃんと雲雀のビジュアル似合うー、殴りたくなるー」
「停学狙いですか?」
「雲雀殴っても停学になんないだろ、普通科同士の抗争はオッケーオッケー」
「つか成績良くても贔屓されねーんだな。雲雀クソ成績いいだろ?」
「殴った相手が悪いんですよ。笹部くん、特別科の今年のホープですよ。雲雀くんより下ですけど」
「そうなの? だとしたらカワイソ過ぎね? トップも三国ちゃんも両方雲雀にとられて……あ、トップは三国ちゃんか」
「てかお前らツートップで付き合うのかよ。なんかすげーな」
「で、それ見た例の雲雀が笹部ぶん殴って」
「俺の好きな女泣かせてんじゃねーよって怒鳴ったらしいよ」
「笹部くんは怪我酷すぎてずっと休んでるんだって。黄組一年のリレー選手も交代するらしいよ」
「群青の三年が出てきて、一緒に笹部くんのこと殴ったらしいよ」
「三国さん泣かせたら群青出てくんの? コワァ……」
雲雀くんが停学になって三日、例の懸念事項は、想像以上の勢いと尾ひれをつけた現実となっていた。
お陰で体育館には「三国はいるかァ」と扉を蹴破りそうな勢いで蛍さん、九十三先輩、その他群青の先輩達がやってきた。体育館内で色別ダンスの練習していた青組のメンバーは、練習途中にもかかわらずザザザザッと一斉に反対側に避難した。ちなみにあと十分もすれば昼休みなのだけれど、きっと蛍さん御一行 (みんな赤色のハチマキをつけているのできっと赤組の先輩達だ)は少し早く練習が終わったのだろう。
そしてみんなが避難した結果、ぽつりぽつりと体育館の真ん中に私や桜井くん、能勢さんといった群青メンバーが残される。蛍さん達がステージ横に終結するので、私達もなんとなくそれに合わせてわらわらと集まる羽目になった。
「……います……こんにちは……」
「お前、一年一組の笹部唯人に泣かされたってマジか?」
泣かされていない……。ぶんぶんと首を横に振ると、後ろの九十三先輩が「ほーらね。だから言ったじゃん」と肩を竦め、能勢さんが「いや、九十三先輩が三国ちゃん泣きそうだったって言い始めたんじゃないですか」……誤った噂はこうして広まるのだと原因を目の当たりにした。
「……泣いてないですし、泣きそうにもなってないです。安心してください」
「てか泣いてたらどうすんの? 笹部殴るの? 俺も行く」
「殴らないの、行かないの」
あどけない顔で暴力的なことを口にする桜井くんに額を押さえた。蛍さんはひょいとステージに腰掛けて「んで、雲雀は?」とトントンステージを指で叩く。
「元気か?」
「元気元気。ずっとモンハンしてるもん、なんかめっちゃ武器増えててさ」
「いーなー、俺も笹部くん殴って停学食らえばよかったぁー」
嘯きながら同じくステージに腰掛けた九十三先輩を「先輩は受験生でしょ」と能勢さんはステージに背を預けながら窘める。でもそこの問題ではない気がした。
「んで、結局お前と雲雀付き合ってんの」
「…………本当に噂って迷惑ですよね」
ドッドッドッと心臓がうるさく鳴り始めたことに気付かれないよう、精一杯冷ややかな声を出した。でも蛍さん達含め、先輩達は珍しく興味津々(きょうみしんしん)で、その顔はコイバナへの下世話な期待で爛々(らんらん)と輝いている。
「別に……そういうことは何も……」
「噂だと公開告白って聞いたぞ」
「だからあ、それはやってないんだって話したじゃん。雲雀は『俺が抱きしめたんだよ』って言っただけ」
「いやあ、気になりますよねえ、いつどうやって抱きしめてたんでしょうねえ」
「夏祭りだろ? 帰りもそんな感じだったじゃねーか、なんか顔に手当ててたし」
「あー、こんな感じね、こんな感じ」
「俺で試さないでくださいよ気持ち悪い」
「でも雲雀に彼女できるのはなんか許せねえなー。あのスカした態度で『三国は俺の彼女ですけど』とか言われるの想像しただけでムカつくー、てか想像したら三国ちゃんと雲雀のビジュアル似合うー、殴りたくなるー」
「停学狙いですか?」
「雲雀殴っても停学になんないだろ、普通科同士の抗争はオッケーオッケー」
「つか成績良くても贔屓されねーんだな。雲雀クソ成績いいだろ?」
「殴った相手が悪いんですよ。笹部くん、特別科の今年のホープですよ。雲雀くんより下ですけど」
「そうなの? だとしたらカワイソ過ぎね? トップも三国ちゃんも両方雲雀にとられて……あ、トップは三国ちゃんか」
「てかお前らツートップで付き合うのかよ。なんかすげーな」