ぼくらは群青を探している
「そこまでできてないですよ、きっと。意外とちょいちょい手を出すに俺は一票です」

「んじゃ俺はどっかのタイミングでもう一回告るに一票」

「あー、確かに、それはありそう」

「というか、三国ちゃんの性格を雲雀くんがどこまで分析してるかにかかってる気がしますよね。三国ちゃん、推しに弱いタイプでしょ。二、三回告られたら折れて付き合いそう」

「マジ? 俺が告ったらいけるかな」

「本気で迫ればいけるんじゃないですか? 九十三先輩、そうは言っても冗談にしか聞こえないんですよ」


 今度は雲雀くんがフラれている前提だし、私本人を目の前にしてそんな話をされてもなにをどう反応すればいいのか分からない。いや、そもそも雲雀くんの話という時点でどう反応すればいいのか分からないけど……。


「ま、お前が笹部に泣かされてないつーんなら別にいいか」


 散々雲雀くんと私の関係をいじるだけいじり、取ってつけたような理由で締めくくり、蛍さんはストンとステージから降りた。


「雲雀が復帰したらよく言っとけよ、学校で喧嘩はマジでやめろって」

「……学校の問題じゃないと思うんですけど」

「あ、体育祭は思いっきりやっていいよって言っといてね。騎馬戦中の怪我はノーカンだから。ハチマキとろうとして芳喜の顔殴ってもセーフ」

「よくないですよね、群青(ウチ)ってみんな顔のいいヤツから狙うじゃないですか」

「青組は桜井、芳喜、常盤(ときわ)あたりを狙えって話してるからな。覚悟しろよ」


 そうして、先輩達は嵐のように去っていった。雲雀くんがいないうちに散々いじり倒そうという魂胆(こんたん)しかなかったに違いない。


「……で、三国ちゃん、雲雀くんから何か言われた?」

「……なにか、とは?」


 現に、能勢さんはいつになく楽しそうな笑みを浮かべて私を見下ろす。能勢さんはいつも笑顔で表情が読めないと思っていたけれど、本当に楽しいときにはこんな顔をするらしい。


「告白とか、されたのかなって」

「……なんでそう思うんですか」


 さっき散々からかわれていてよかった。もう顔は紅潮(こうちょう)しきっていて、私の顔色から読み取れる状態にはないだろう。


「だって公開告白されたって噂が回るくらいだよ? よっぽどいい雰囲気だったのかなって」

「……(はた)から見ているぶんにはただの一方的な暴力の図だったと思いますけど」

「あの笹部くんを見れば、それは確かに一目瞭然(いちもくりょうぜん)だったかな。多少関係はするけど、結局人を殴り殴られなんて運動神経だけあっても意味ないことだし」


 ニッと能勢さんは意味ありげに口角を吊り上げて「それがそう見えたってことは、そういうことなんじゃない? 何も言われてないなら、俺達はからかう以外することないけどね」とヒラヒラ手を振り、昼休憩に入った他の青組の人達のもとへ行ってしまった。

 そして、散々雲雀くんとのことをからかわれた後に、私と桜井くんの二人組が残される、と……。そっと桜井くんの横顔を見たけれど、その表情にいつもと違うところはなかった。


「……なんか先輩ら、色々言ってったね」

「……そう、だね」


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