ぼくらは群青を探している
 その話しぶりだと、あたかも好きなのは気付いていたけど告白という一点においてのみ想定外だったかのように聞こえるのだが? そう口にする前に「え、だって侑生が仲良い女子って英凜くらいじゃん。池田も最近は仲良いけどさ」続きを読まれた。ただ、その程度の推論理由なのであれば大した問題はない。私が鈍かったわけではない。


「てか最初っから気に入ってたよな。一目惚れだったのかなあ、そこまで聞いてないけど」

「え、いや、だから、いやそんな話は、どうでも」

「どうでもよくないじゃん、気になるじゃん。さすがに停学食らったばっかり、告ったばっかりだから聞かなかったけど」


 でも先輩らあの調子なら復帰した瞬間に聞いていじり倒すのかなあ、と桜井くんはいつもどおりのぽやぽやした様子でぼやくだけだ。


「でもアイツの中で勝算どうなってんだろう? 英凜がいつも以上にぼけーっとしてたって言ったら『あっそ』しか言わないし、英凜にそういう目で見られてないのは知ってるとか言うし」

「……雲雀くんの話は桜井くんに筒抜けなの」

「いやさすがにこんだけ。フェアじゃないから話しとくって言われた」

「フェア……」

「別に告るのにフェアもなにもないと思うんだけどな。んー、でも俺が侑生の立場でも侑生には言うか。フェアってか黙って付き合う付き合わないやられたら気まずいし」

「てかマジでこのタイミングで告るとは思ってなかった、早くね?」「だってまだ九月だよ。俺ら知り合って半年未満!」「てか噂、結構ヒヤッとしたんだよな。あれ、侑生が告ったのってそんな広まってんの? って。でも侑生は廊下で誰もいないときに言ったつってて、噂は公開告白だったから、よかったただの噂だー、ビビったーってなった」「てか笹部、侑生の気持ちだけお見通しだったんだな、英凜の気持ち分かんなかったのに、ウケる」


 ……桜井くんはコンビニに着くまでの間、そんな話しかしていなかった。他に話したことといえばパンコーナーの前にいる私の横で「あ、このねー、新発売のカレーパンがおいしい!」なんてことくらいだ。でも桜井くんはカレーパンを買わなくて、私だけが買った。


「……雲雀くん、他に何か言ってた?」

「ん?」


 学校に帰る途中、桜井くんは歩きながらあんパンをかじり始めていた。


「他って?」

「……なにか特定のってわけじゃないんだけど……その、他になにか……」

「んー、別に。何かあるとしても俺には言わないんじゃん? 俺伝いに英凜に伝わるって期待しながら話すとか、侑生しなさそうじゃん。笹部とかすんのかもしれないけど」


 そうじゃなくて、私のことじゃなくて、雲雀くんと桜井くんとの間で、何かとか。


「あー、てかね、侑生から俺が聞いてるって話、聞いたって内緒ね」

「……うん?」


 話題の転換に一瞬期待した自分がいたけれど、不可解なお願いにその期待は上昇途中で止まった。桜井くんはあんパンを口に押し込みながら「侑生に、告られたって聞いたよーとか英凜に言うなよって口止めされたんだ。んでおっけーおっけーとは言ったんだけど」と雲雀くんとの約束を破ったことを白状した。


「でも、侑生と付き合うかどうかって考えたら、英凜は絶対俺のこと気にするじゃん? 先輩らも言ってたけど、三人組で一人余るみたいな」


 ……今まで桜井くんと雲雀くんの三人でしていたことが、雲雀くんと二人ですることになるから。


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